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- 国内外の芸術フェスティバルに関する実態調査から ~我が国を代表する芸術フェスティバルの創設を~
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ニッセイ基礎研究所では、芸術家会議から委託を受けて、1991年度より4年間にわたって国内外の芸術フェスティパルに関する実態調査を実施してきた。本レポートは、その概要として、国内外の代表的な芸術フェスティバル37件に関する調査・分析の結果と、我が国における芸術フェスティパルの今後の方向性について整理したものである。
<要旨>
- 諸外国の芸術年鑑によると、現在世界各国で開催されている芸術フェスティパルは2,000件近くにのぼり、米国(404件)、フランス(198件)、ドイツ(151件)、イギリス(148件)、イタリア(120件)等で特に活発である。我が国でも1991年度調査で65件の情報が得られたが、海外の年鑑類には数件のみの掲載で、国際的な認知度はあまり高くない。
- 欧米諸国では、今年100周年を迎えたヴェネチア・ビエンナーレをはじめ、戦前に創設されたものもあるが、代表的なフェスティパルの多くは戦後から1970年代にかけて始まったものである。それに対し、アジアでは1970年代の後半に、我が国では1980年以降に創設されたフェスティパルがほとんどである。
- 芸術フェスティバルの基本的性格は、(1)芸術作品の紹介、(2)芸術創造、(3)都市(芸術)活性化、(4)地域振興、(5)芸術の教育普及の5つに集約され、実際にはこれらが複合されているものも多い。今後は、フェスティバルを芸術の“消費”の場から“生産”の場にしていくためにも、「(2)芸術創造」の性格が重視されるべきである。
- また、プログラムの構成からは、(1)総合型、(2)複合型、(3)単一型の三つに分けられるが、我が国にはまだ本格的な総合型の芸術フェスティバルは存在していない。
- 開催地がリゾート都市や地方都市であるか、あるいは大都市であるかによってフェスティバルの成り立ちは大きく異なる。リゾート都市の場合は、夏の観光シーズンに合わせ、芸術団体のシーズンオフの活動拠点と結びついて開催されるものも多い。大都市の場合は、芸術の新しい傾向を集約して紹介するものなどが見られるが、日常的に行われている各種公演やコンサー卜などといかに差異化するかが大きな課題となっている。
- また、欧米のリゾート都市では、フェスティパルの会場として中世の城などに仮設会場を設営する例もあり、劇場やコンサートホールでは得られない芸術的な体験を得られる空間として、フェスティバルのシンボル的な存在となっている。
- プログラムの立案に関して、ヨーロッパや北米では芸術監督制が採用されているのに対し、アジアでは委員会方式が主流となっている。我が屈でははっきりとした傾向はないが、フェスティバルが明確な主張を持ち、芸術的なメッセージを発信していくために、今後は芸術監督制の導入が望まれるところである。
- フェスティバルの主催機関は行政主導型と民間主導型に分けられ、さらに主な財源の種類(公的財源、民間助成、入場料収入等)によって5つのタイプに分類できる。ヨーロッパやアジアでは行政主導で公的な財源に依存するものが多く、北米は民間主導で入場料収入によって財源を確保するものが多い。それに対し、我が国では民間主導で民間からの助成金や協賛金に頼るものが多く、財政基盤が概して不安定である。
- フェスティパルの運営予算の規模はまちまちであるが、本格的な総合フェスティバルでは総事業費5~10億円程度、中規模のものでは2~5億円程度というのがひとつの目安となっている。
- 今後、我が国の芸術フェスティパルでは、次のような方向性が重視されるべきである。
(1)大都市において我が国を代表するような総合的な芸術フェスティパルを創設する。
(2)フェスティバルでは、新しい作品を創造・公開することに重点を置く。
(3)教育普及や情報ネットワークの構築など、フェスティパルを通じて芸術のインフラ整備を行う。
(4)フェスティパルによって地方都市における芸術活動の拠点づくりを行う。
(5)既存フェスティパルの育成を含め、政府・行政機関がフェスティパルの開催に積極的に取り組む。 - 21世紀を目前に控え、相互依存の高まる国際社会の中で、民族や言語を越えたコミュニケーションの手段として、芸術フェスティバルの重要性は今後ますます高まるものと思われる。我が国においても、本格的な総合芸術フェスティパルの創設、既存のフェスティパルの育成等を通して、国境や時代を越えた芸術的な価値の創出と国際的な相互理解が促進されることを期待したい。
(1995年10月01日「調査月報」)
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吉本 光宏 (よしもと みつひろ)
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