1995年09月01日

デリバティブとの共存 ~ユーザーのための指針~

乾 孝治

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<要旨>

  1. わが国におけるデリバティブ(金融派生商品)の普及には目を見張るものがある。特に、ここ数年は、エンド・ユーザーとして一般の企業にも広く浸透し、資金調達・運用やへッジなどの手段として利用されている。その反面、デリバティブ取引によって巨額の損失計上を余儀なくされたり、企業の存亡に関わるケースもおこっている。このような損失の原因は、リスク管理技術の未熟さもさることながら、デリバティブ取引に関わる責任者の理解不足による場合が多いようである。
  2. また、デリバティブ取引の拡大は、現物市場に少なからず影響を及ぼしていると指摘されている。市場のボラティリティを高め、市場本来の資金配分機能や価格発見機能を阻害しているといった「悪玉説」から、裁定取引が市場の歪みを是正して、効率性を高めているといった「善玉説」まで、様々ある。いずれにしても、市場参加者は、自らデリバティブ取引を行わなくても、デリバティブと共存せざるを得なくなったのが現実だろう。
  3. デリバティブの種類は、先物、オプション、スワップの3つに大別されるが、対象資産やその組み合せを考えると、無数にあると言ってもよい。また、デリバティブ取引の目的や、取引主体の技術レベルも様々なため、デリバティブ取引に求められるリスク管理のあり方を、一概に定義することはできない。しかし、デリバティブには、リスクの実態が分かりにくい上に、リスクが急激に増減する特質があるため、取引開始にあたっては、リスクを透明にし、正確に評価するためのリスク管理の強制が不可欠である。
  4. こうしたリスクの管理は、現場の担当者から各部門の責任者レベル、さらには経営トップに至るまで首尾一貫した方法で行う必要がある。そのためには、リスク管理モデルやコンピュータ・システムなど「技術的」なインフラも重要であるが、それに劣らず、リスク管理についての社内の基本的な理解や共通言語の創出、さらにはリスクを早期発見し、未然に対応できる組織づくりといった「人間的」なインフラの構築が重要である。
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