1994年09月01日

米国におけるプルーデント・マン・ルール -他人のために資産運用を行う者の注意義務と忠実義務-

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<要旨>

  1. 近年わが国で、企業年金資産の運用規制(いわゆる「5:3:3:2規制」)を撤廃し、米国のエリサが定めるような、プルーデン卜・マン・ルールを採用してはどうかとの議論がなされている。その適否を検討するには、まず米国におけるプルーデント・マン・ルールの内容や発展の歴史を理解しておくことが必要と考え、本稿でその概要を紹介する。
  2. 「狭義のプルーデン卜・マン・ルール」は、信託の受託者が信託財産を投資する際の注意義務(duty of care)に関する準則であり、義務の内容は「プルーデンス(思慮深さ)」という一般条項により柔軟に定められている。これに対し、「広義のプルーデント・マン・ルール」は、注意義務のほか、忠実義務(受託者は専ら受益者の利益を図らなければならない)、その他の義務を含む概念である。
  3. プルーデント・マン・ルール、特に狭義のそれは、1830年のハーバード大学事件判決により誕生し、信託財産の投資に関する準則として信託法リステイトメン卜にも取り入れられた。その後、モダン・ポートフォリオ理論やこれに伴う投資実務の発展に対応して、プルーデン卜・マン・ルールは、1974年のエリサにより、まず企業年金資産の投資の分野で現代化され、1990年の信託法第3次リステイトメン卜においてプルーデント・インベスター・ルールとして集大成された。プルーデン卜・インベスター・ルールは、概ねモダン・ポートフォリオ理論に沿った内容となっており、「個々の投資」ではなく「ポートフォリオ全体」が重視される。
  4. 米国のプルーデント・マン・ルールやその発展の歴史から、次の事実を学ぶことができる。
    ・プルーデン卜・マン・ルールは、具体的な救済を認めた判例の積み重ねにより形成されてきた、実用的な準則である。
    ・注意義務の面では、モダン・ポートフォリオ理論に沿った投資プロセスが求められる。
    ・忠実義務の面では、伝統的な忠実義務のほか、エリサにおいては、実質的な判断を伴う詳細な禁止取引規制に従うことが必要である。
    ・注意義務や忠実義務等を含む「広義のプルーデント・マン・ルール」により受益者の保護を図ることが重要である。
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