1994年09月01日

ブレトンウッズ体制50周年

細見 卓

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世界を二分した冷戦も解消して、平和の時代がきたようにみえる。しかし、よく考えてみると20世紀というのは、人類の歴史上、最も悲惨な、大きな戦争を二度にわたって繰返してきており、地域的、民族的紛争に至っては今なお続いている。

第一次大戦の恐るべき戦禍をみて、再び戦争が起こらないようにと国際連盟が発足した。国際連盟は多数の国が、初めて、協同で平和を建設しようという試みであった。しかしながら、提唱国米国の不参加やルール執行についての保証措置がなく(例えば日本を初めとする枢軸国の脱退)、期待に反して第二次大戦が勃発し、より大きな被害を世界にもたらすことになった。戦禍の悲惨さに直面して、世界の復興を考える立場から、連合国主体の諸々の国際機関が発足した。それは、世界平和を維持する機関としての国際連合であり、世界の経済的利害調節機構としてのブレトンウッズ体制、及びガットの発足であった。

その戦後の世界経済の安定化と発展のための基本機構としてブレトンウッズ体制が発足して、既に50年が経過した。ブレトンウッズ体制はIMFと世界銀行から成っており、前者は国際通貨の安定、後者は世界の復興、開発のための資金供給を目的とした。世界の通貨機構のシステム作りにあたっては、英国のケインズの主張する共通通貨による信用機構の創設と、米国の金に裏付けされたドルを中心とする国際通貨制度の創設という2つの考え方があった。結果は米国の主張通り、ドルを国際通貨とした国際通貨基金の創設となり、各国はその経済力に応じて出資して、国際的な流動性の確立を図るものであった。各国政府による出資を母体としてはいるが、現実の国際決裁はドルを中心に行われており、そのドルは1オンス=35ドルという金価格に裏付けされていた。文字通りドルが世界通貨の役割を果たすことになったのである。

戦後の米国の経済力は、世界の半分近くを占めており、また米国企業の競争力も大きかったので、暫くは安定し、世界貿易にも支障はないとされていた。しかしながら、いかに巨大な米国でも特定の国の通貨を基軸にすることには、流動性の懸念があった。やがて、米国経済が爛熟期を迎え、日独の経済が強力になるにしたがい、米国産業は競争力を失い、その国際収支は赤字となってきた。その上、企業は競争力回復のため、今の日本にみられるような、生産拠点の国外逃避という空洞化現象がみられた。

米国の国際収支赤字の巨大化は、各国にドルのオーバーハング(過剰)をもたらし、米国はついにドルと金との交換を停止して、ドルの流出に伴う、金の流出を止める、いわゆるニクソンショックを起こした。金との繋がりをなくしたドルの価格は市場の取引によって決定される、いわゆる変動相場制になり、ドルは下落の道を辿ることになった。

円とドルとの関係を考えても、1ドル=360円だったものがわずか20数年ぐらいの間に3分の1以下になった。日米の生産性格差を考えてみても、日本の追い上げは、それ自体大きなものだったことは事実としても、果たしてこれまでの為替レートの変動幅ほど激しく、その関係が変わってきたとは到底考えられない。現に購買力平価でみると、1ドルは160~170円といわれている。このような急激な為替レートの変動は貿易当事国の国内経済に甚大な影響を与えるもので、日本経済も今大きな混乱に陥っている。理屈の上からは、行き過ぎた円高は必ず是正され、やがては購買力平価の水準に収斂していくと考えるのは当然であろう。しかし、その調整の過程における打撃の大きさを考えれば、もし、適正、強力なメカニズムがあり、不当な変動による不必要な打撃を回避できたらと考えることは、自然のことである。固定相場制がニクソンショックで崩壊して久しく、またブレトンウッズ体制創設から50年を経た今こそ、本来の世界経済の発展を阻害しない、望ましい為替制度のあり方について、今一度根本的に考えてみるのは、通貨を担当する人達にとって当然の責務である。

ブレトンウッズ体制の将来を心配する、いわば古き良き時代を知る人々が、現行の国際通貨制度の不安定性を克服する方法についての提案を、7月にワシントンで行われたブレトンウッズ50周年記念総会で公表した。残念ながら、為替レートを安定したターゲットとして取扱い、それを守るために各国は政策協調すべきだという提案は、現当局の受け入れるところにはならなかった。しかしながら、貿易、国際信用、あるいは資本取引といったものに非常に大きな影響力をもつ為替レートを、国際的秩序付けのようなものを考えないで、市場の赴くままに放置してよいものかどうかは、これからも考えていくべき問題であろう。通常の取引と投機取引の区分、あるいは投機取引の規制という問題は非常に取扱いが難しいが、当局がこれほど大きな変動が起こる現行の通貨制度につき、効果的な対策を打てないでいるということは、ディシプリンを欠くだけでなく、政府の任務の懈怠であり、ガバナビリティの問題にも繋がるものであろう。現状を放任すれば、ますます内政中心になる政府の緩みに、ブレーキがかからなくなるのではないか。

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