1994年01月01日

1994年度経済見通し

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<要旨>

米国、イギリスの景気は引き続き拡大局面となろう。一方、ドイツ(旧西独)は底這い、日本は「ゼロ成長」の厳しい情勢が続こう。


I.海外経済~米国・イギリスは緩やかに拡大、ドイツは底這い

  1. 米国経済は金融緩和の効果等から91年3月に景気底入れとなった後、緩やかな拡大局面が続いている。実質GDP成長率は92年に2.6%とプラスに転じたが、93年は2.8%と見込まれる。94年経済の特徴は、(1)景気が拡大に転じて2年半強であるが、景気の成熟度は依然低く自律的拡大余地は大きい、(2)クリントノミクスの94年中の総合的な影響は▲0.3%と軽微、(3)企業業績は改善しているが、リストラクチャリングの動きが続き雇用拡大テンポ緩慢-などの点と判断される。94年の実質GDP成長率は増税等で上期に鈍化するものの、基調的には設備投資・住宅投資の高めの伸びに消費の堅調が加わり、2.7%の緩やかな拡大となろう。物価は94年も安定基調が維持されるが、下期はやや上昇率が高まろう。金融政策は景気、物価等からみて94年央頃まで基本的には現状据え置き(公定歩合、FFレートともに3.0%)、その後、予防的な小幅利上げ(0.5%)となろう。
  2. 欧州では、ドイツは最悪期を脱したものの底這い状況、イギリスは回復傾向が続こう。ドイツ経済は93年4-6月期に下げ止まりの兆しが現われたが、その後も一進一退の推移が続いている。実質GDP成長率は92年1.2%から93年▲2.2%と戦後最大のマイナスとなる見込みである。94年は、金利低下の累積効果・インフレ率の改善等のプラス要因はあるものの、他方で雇用調整・設備ストック調整の持続等のマイナス要因があり、景気全体としては実質GDP成長率▲O.3%と底這い状況が続こう。インフレ率は賃金上昇率の低下から引き続き鈍化傾向となろう。金融政策は景気低迷、インフレ率鈍化等から緩和が続こう(公定歩合:現行5.75%→94年末3.5%)。
    イギリス経済も米国同様、金融緩和を背景に92年4-6月期に底入れの後、回復傾向が続いている。実質GDP成長率は92年▲0.6%から93年1.9%と3年振りのプラスに転じる見込みである。94年は財政赤字削減が実施されるが、金融緩和効果や消費者マインドの改善から緩やかな景気回復が続き、実質GDP成長率は2.2%となろう。財政引き締めによるデフレ効果を相殺する目的等から利下げ(11/23、0.5%)となったが、さらに94年1-3月期に0.5%の利下げ(ベースレー卜、5%へ)が予想される。
  3. 原油価格は趨勢的に下落傾向にあり、日本の通関入着価格(バレル当たり)は92年度19.3ドルが93年度17.1ドルに低下する見込みである。(1)世界景気の回復力が弱い、(2)産油国の減産に向けた姿勢も弱い-等で需給の緩和基調は変わらず、94年度は15.5ドルとなろう。

II.日本経済~戦後最長の不況に、94年度はゼロ成長

  1. 景気は91年4月をピークに後退局面に入った。93年春頃には底入れ論も出たが、基調的なマイナス要因である設備投資減少と消費低迷の持続に、(1)円高による外需減少、(2)ゼネコン汚職・長雨等による公共投資減少、(3)在庫増加を背景とした生産抑制-が加わり、後退が続いている。今不況は長さ、実質成長率の低さで「戦後最長・最低」となる恐れが強い。
  2. 景気後退の長期化・深刻化の中、企業はリストラを続け、景気対策もなされてきた。しかし、(1)80年代入り後の資本効率の趨勢的低下が持続(総資本回転率。特にバブル期)、(2)固定費はかなり抑制されたが売り上げが一層減少し、固定費負担は上昇-等から企業部門で一段の縮小均衡・固定費削減圧力が強く、雇用環境悪化の懸念も高い。政策面では92年来4回の経済対策(総事業規模約30兆円)が策定され、公定歩合も9月の第7次利下げで史上最低の1.75%となっている。こうした政策が景気下支えに寄与してきたのは事実である。しかし、現状はストック調整、バブル崩壊の後遺症、円高等の影響で設備・消費等の不振が大きいことに加え、(1)財政面では執行上の懸念が発生、(2)金融面ではエクイティ債借り換えによるコス卜増等から利下げ効果が出にくい-という状況にある。
  3. 現在、日本経済は厳しい状況にある。民間は事業方針を明確化し、リストラ徹底で体質改善を図り、自律的回復に向けた基盤を作ることが重要であるう。政府は長期ビジョン確立と短期的追加対策実施が不可欠と認識される。本予測lでは追加策として、(1)94年1月から6兆円の所得税・住民税減税(財源は国債。増税は景気回復の定着後)、(2)94年度名目公的固定資本形成は3.5%増、(3)94年3月末までに0.5%利下げ-を前提とした。
    94年度の実質GDP成長率は93年度▲0.9%から改善されるが、企業部門のデフレ圧力の大きさ等から「ゼロ」にとどまり、景気低迷が続こう。94年度は「良くて下期底這い程度」で明確に底入れする可能性は低い。なお、民間部門の弱さ等で景気下振れリスクは高く、2年連続マイナス成長の恐れもある。このため一段の追加策が必要となる可能性も高く、(1)減税追加、(2)社会資本整備計画見直しと円滑執行-等の点で早急な検討を要しよう。
  4. 経常収支黒字は92年度1259億ドル(名目GDP比3.4%)から93年度1380億ドル(同3.1%)に増加しよう。94年度は、海外景気の改善方向・原油価格下落等の黒字拡大要因と、円高の輸出入数量面への影響等の縮小要図が併存する中、1470億ドル(名目GDP比3.2%)となろう。為替(円ドル)は、(1)日本の黒字の拡大テンポは縮小、(2)米国は利上げ実施-が予想されるものの、黒字の水準自体は依然大きく円高方向の圧力が残る状況で推移しよう。年度平均で92年度125円が93年度106円、94年度103円となろう。
  5. 93年度末頃までに利下げ(第8次、現行1.75%からO.5~0.75%の引き下げ)が実施されよう。長短市場金利は一段低下の後、94年度はおおむね横ばい圏となろう。
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