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ワシントンで開催されたIMF・世銀総会に出席する機会を得た。今回の総会の印象を一言で言えば、米国のクリントン大統領が欠席したことに象徴されるように今後の世界経済の運営に大きな転機を画するような会議にはならなかったということである。IMFについては、国際協調を続け、インフレを抑制しながら持続的な経済成長を図るというこれまでの型に止まり、世界銀行についてもアフリカや旧ソ連等被援助国の惨状にもかかわらず、資金不足の悩みは深まり、世界から貧困を追放するというスローガンは見掛け倒しとなっているようである。
このように世界経済の立ち直りに向かって力強く一歩を踏み出すような機会には恵まれず、各国はそれぞれ自力で自国経済の回復と健全化を要請されることとなった。とりわけ、膨大な貿易黒字を抱えながら深刻な不況に直面しつつある日本に対しては、必要な景気刺激策を求める勧告がなされた。しかしながら、日本経済の需要不足は巨大なものであり、これまでの累計三十兆円に及ぶ景気刺激策をもってしても速やかな景気回復は期待薄であり、引き続き停滞は避けがたい状況のようである。この先大幅な所得減税を実施するか否かは定かではないが、その財源確保のための消費税率引き上げをめぐっての国論の統一は、そう容易ではないように見える。加えて、ゼネコンによる不祥事も絡み、これまでのような公共事業によるケインズ主義的な政策は景気の速やかな浮揚効果が余り期待できないようであり、今までのように不況になれば、政府が何かしてくれるという受け身の姿勢ではもはや乗り切れない事態を迎えている。
つまり、従来型の「不況→公共事業等による景気刺激策」が有効な時代は終わり、企業体自らの思い切った構造改革と長期的な観点に立った新たな企業行動が求められている。新しい製品を開発し、新しい生産方法を見つけ、新しい市場を開拓するという企業家精神の振興なくしては持続する繁栄の道へ回復することは困難であろう。企業家にとって何が大切であるかについては、既に司馬遷がその「貨殖列伝」の中で今日の企業家を奮起させるような徹底した商人(実業家)観を述べている。それを一言で言えば、企業家精神を持った者だけが事業に成功するのであり、そのためには時勢の変化を見抜く知力、決断する勇気、分配の公平を図る人徳、決然として仕事をやり抜く意思が欠くべからざるものであるとし、そうした資質を持った人こそが真の商人であるとしている。政府による保護や援助を当てにすることなく、断固とした意思をもって心機一転新たな局面を開拓することの必要性を、司馬遷ははるか昔から喝破していた。今我々もこれに学ぶ時ではなかろうか。
(1993年11月01日「調査月報」)
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