1993年01月01日

1993年度経済見通し

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<要旨>

世界景気は依然低迷状態にある。米国の回復力は弱く、日本は後退感が強まっている。以下は海外主要国と日本についての93年度見通しである。


I.海外経済

  1. 米国のリセッション(90年7月起点)は92年1-3月期に終了したとみられる。実質成長率は92年に1.8%と、前年の▲1.2%からプラスに転じるが、回復力は弱い。93年の予測においては、「クリントノミクス」がポイントである。投資減税、公共投資、富裕層増税、国防費削減-の政策が実現する可能性が高い。全体としては景気刺激効果は小規模であり、金利上昇圧力も軽微と判断される。93年は累積的な金融緩和効果、企業収益改善、投資減税・公共投資増―等から設備投資、住宅投資等が拡大し、2.5%成長となろう。ただし、実質長期金利高等の構造的成長制約要因は解消されておらず、緩やかな成長にとどまろう。
  2. 欧州経済においては、(旧)西独はこれまでの金利高、マルク高等を背景とした消費、投資、輸出の不振から景況感が急速に悪化している。93年も内需、外需とも低調で停滞傾向が続こう。実質成長率は91年の3.6%から92年は1.0%、93年は0.6%となろう。英国では90年末以降の策景気後退が続いているが、9月のERM離脱後、経済運営は「景気回復重視」に転換しており、金融緩和、財政支出の拡大等により景気は緩やかな回復に向かおう。実質成長率は91年▲2.2%、92年▲0.9%のマイナスから、93年は1.2%のプラスに転じよう。
  3. 原油市場にはイラク原油の市場復帰問題、旧ソ連の輸出動向等、引き続き不確定要因があるが、価格は基調的には世界景気の改善傾向を映じて横這い、ないし強含みとみられる。OPEC諸国の最近の増産傾向は、80年代央以降の行動パターンからみる限り、長期間持続されるとは考えにくい。92年度19.5ドル/バレル(日本の通関入着ベース)、93年度20.3ドル/バレルの見通し。

II.日本経済

景気は92年度下期に底入れする公算が高いが、バブル崩壊の後遺症が大きく、企業・家計等のリストラクチャリングの動きの中で景気の回復力は弱い。実質成長率は91年度の3.5%に対して、92年度1.6%、93年度2.3%にとどまろう。

  1. 景気後退は91年1-3月期から始まったとみられるが、消費・設備投資の低迷等で後退感が強まっている。予想以上の落ち込みは、(1)資産価格下落とそのデフレ効果が大、(2)世界景気の下方修正―による。8月の総合経済対策で92年度実質GNPは約0.6%(92、93年度計は約1.3%)押し上げられるが、民需の弱さから成長率は1.6%と74年度(第一次石油危機時、▲0.2%)以来の低さとなろう。直近の生産動向などからは今年度下期に景気底入れの可能性が高いものの、その後も底這い圏での動きに近い状況にとどまろう。景況感が改善に向かうのは93年度央頃にズレ込もう。
  2. 93年度経済をみる際のポイン卜は以下の点であろう。
    (1)家計部門のリストラクチャリングへの圧力
      現在、家計はバブル期の過剰消費と株安で貯蓄不足の状況にある。このため、今後、中期的に消費性向引き下げ圧力があろう。なお、貯蓄不足を株価上昇でカバーしようとすれば、株価が2.5万円強に戻ることが必要。
    (2)企業部門のリストラクチャリングへの圧力
      人件費等の固定費負担増加等から、総資本利益率は既にバブル期にも低下していたが、直近では売上不振が加わり、一段の低水準となっている。企業が体質改善を図る過程では、雇用・設備投資両面での調整圧力が続こう。
    (3)財政・金融政策面での対応
      (1)、(2)は短期的には景気下押し圧力となろう。そこで、93年度公共事業追加3兆円・所得税減税3兆円、近々の利下げ(3.25%→2.75%)を予想。
  3. 以上を織り込んだ93年度経済は、92年度下期に底入れ後、住宅投資・公共投資の増加、海外経済の改善等から緩やかながらも上向きに転じる姿となろう。実質GNP成長率は設備投資のマイナス持続等から2.3%にとどまろう。財政面での追加策なしでは1.6%程度の成長と予想され、景気の二段調整のリスクも増そう。
  4. 経常収支黒字は内需低迷等から拡大が続き、91年度の902億ドル(名目GNP比2.6%)が、92年度1240億ドル(同3.3%)、93年度1330億ドル(同3.3%)となろう。為替相場は米景気の回復傾向等から93年夏頃までやや円安、その後は日本の対外黒字増加趨勢、景気回復持続等から円高を見込み、92年度126円(対ドル、91年度133円)、93年度122円と予想した。

内外ともにダウンサイド・リスクを抱えた困難な状況にある。国際的には政策協調の重要性が増し、国内的には民間部門のリストラクチャリングへの努力と機動的な政策対応が望まれる。

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【1993年度経済見通し】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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