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<米国経済>
米国経済は非常に緩慢ながらも成長を続けている。月次の指標をみると、9月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比▲5.7万人となった。ただし、この中には政府による若年層の夏期特別雇用者の解雇が約9万人含まれていることから、これを勘案すれば、実質的には約3万人の増加となる。
一方、9月の消費者信頼度指数(コンファレンス・ボード)、NAPM景気指数ともに、前月から低下し、それぞれ、56.4(8月59.0)、49.0(同53.7)となった。特にNAPM景気指数は、景気拡大の目安とされる50を割り込んだことから今後の製造業の生産活動にやや懸念を抱かせるものと言える。
住宅着工、小売売上等他の家計部門の指標も伸び悩み基調を示しており、また、マネーサプライ、商業銀行の商工業向け貸出等の金融関連指標も依然として低迷している。
こうした足もとの景気足踏み状態の背景には、過去の回復局面と異なる「構造的要因(家計と企業の負債調繋の動きと実質長期金利高等)」が依然として成長制約要因として影響しているためとみられる。
しかし、今後については、(1)これまでの累積的な金融緩和の投資刺激効果、(2)家計・企業の負債調整の進展によるパランス・シートの改善、(3)企業収益の回復等、を背景に「緩やかながら持続的な回復」となろう。ただし、回復ペースは限定的なものにとどまろう。物価については、8月の消費者物価は前月比0.3%、食料とエネルギーを除いたコア部分は0.2%(7月0.2%)と落ち着いた動きとなっている。特に、コア部分は4か月連続して0.2%の上昇にとどまっている。単位労働コスト上昇率は低下傾向にあることなどから当面、物価安定基調が続こう。
金融政策については、以上のような景気・物価動向を踏まえると今後もう一段の金融緩和の可能性は残されているものとみられる。
<日本経済>
日本経済では、民間内需の低迷持続により景気の厳しさが増している。先般発表された92年4-6月期の国民所得統計速報によれば、実質GNP成長率は前期比年率1.1%増と低水準にとどまった。1-3月期の「閏年効果」の反動という面もあるが、内需は寄与度で▲0.2%のマイナスである。項目別にみると、実質で個人消費が前期比年率▲0.1%減、設備投資も同▲9.4%減と第一次石油危機以来約18年ぶりのマイナス幅となったことが大きな要因である。こうした中で、景気を下支えしているのは、住宅投資(同10.3%増)の回復と、公共投資の大幅の伸び(同32.6%増)である。一方、外需では、海外景気の回復の遅れにより輸出が減少したが、国内景気の低迷から輸入の減少がそれを上回ったため、結果として1.2%とプラスに寄与した。
足もとの経済指標をみると、8月の鉱工業生産指数は前月比▲3.7%と減少したが、製品在庫率指数は112.2と前月から一段と上昇、在庫調整は遅れ気味に推移している。一方、個人消費関連の指標は低迷している。7月の実質消費支出(全世帯)は、前月比0.4%増とやや増加したが、耐久財、半耐久財の伸びは依然マイナスで消費の足を引っ張っている。また、8月の乗用車新車登録台数は前月比▲6.2%の減少、大型小売店販売(店舗調整済)も前年同月比▲2.0%減となっている。所定外給与やボーナスの鋭化を背景に賃金の上昇率が鈍化していることに加え、就業者数も伸び悩み傾向にあることにより所得の伸びが鈍化。また、消費性向についても、インフレ率の改善、金利低下によるプラスの効果を資産デフレの影響が相殺しており、低調な推移となっている。次に、設備投資の動向をみると、先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は、7月、前年同月比▲17.4%と減少、8月の民間建設受注(大手50社)も同▲35.5%減と4月以降二桁マイナスが続いている。景気の減速から企業収益が悪化するなど足もとの環境は厳しく、大企業・製造業を中心にストック調整圧力は根強い。
一方、8月の新設住宅着工戸数は年率換算で146万戸と7月に続いて堅調に推移するなど住宅投資は回復基調にある。内訳では分譲住宅が低迷しているものの、持家と貸家を中心に増加基調を維持している。公的需要については、「総合経済対策」に係る補正予算成立の時期が11月以降となることから年度内の執行には一定の限度があるものと思われるが、民間内需が弱いなか、国内需要の落ち込みを防ぐ上で一定の役割を果たそう。
最後に、国際収支の動きをみると、経常黒字は8月も1000億ドル(年率換算)を超え、92年度は過去最大の規模となるペースで進捗している。輸出は、数量ベースでは伸び悩んでいるものの、円高、高付加価値化を背景としたドル建て輸出価格の上昇により、堅調に推移している。一方、輸入は、内需の伸び低迷を背景に、減少傾向にあり、当面、黒字の拡大基調が持続しよう。
<ドイツ経済>
旧西独(以下、西独)は、91年春頃から続いている景気調整局面の最終段階にあるといえよう。92年4-6月期の旧西独(以下、西独)の実質GNPは、前期比▲0.2%のマイナス成長となった。しかし、足もとの指標をみると、8月の鉱工業生産が前期比1.5%増と6ヵ月振りにプラス成長に転じる等、景気にやや改善の兆しが見える。物価面についてみると、9月の消費者物価の上昇率は前期比0.4%(年率4.3%)、前年同月比3.6%と、依然、高止まりを続けている。国際収支については、世界景気の遅れによる輸出の伸び悩みを主因として、貿易収支の改善傾向は年初より足踏み状態にある。7月の貿易収支の黒字は11億マルクとなり、92年4-6月期の月平均の23億マルクより縮小した。
<イギリス経済>
イギリスでは、90年半ばからの景気後退局面が依然、持続している。92年4-6月期の実質GDPは前期比▲0.1%のマイナス成長となった。物価面については、需要の低迷を背景として、落ち着いた推移が続いている。8月の消費者物価上昇率は前年同月比3.6%と、7月(3.7%)を下回った。国際収支については、世界景気の低迷から、輸出が伸び悩む一方、輸入が底固く推移しているため、年初より赤字の改善傾向は一段落となっている。8月の貿易収支は▲12億ポンド、経常収支は▲11億ポンドとなり、4-6月期の月平均(各々▲11億ポンド、▲10億ポンド)よりわずかに悪化した。
(1992年11月01日「調査月報」)
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