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<米国経済>
92年1-3月期の実質GDP(暫定値)は前期比年率2.4%となり、91年10-12月期の同0.4%から緩やかな回復を示した。個人消費(同5.4%)、住宅投資(同8.4%)が堅調に伸びた反面、在庫の大幅な取り崩し(▲184億ドル)があったことを勘案すれば、今後も緩やか回復基調が続こう。
5月の非農業雇用者数は前月比6万8千人増加となる一方、失業率は7.5%と前月の7.2%から0.3%上昇し、8年ぶりの高水準となった。今回の失業率が上昇した要因としては、(1)非農業雇用者数が事業所調査をベースにしているのに対し、失業率は家計調査をベースにしていること、(2)景気回復初期の緩やかな雇用環境の好転を背景に、雇用者数の増加を上回る人数が新たに労働市場に参入したこと、が挙げられる。5月の労働力人口をみても前月比33万人増と非農業雇用者数の増分を大幅に上回っている。但し、5月の失業率は上昇したものの、非農業雇用者数は2月以降、増加基調にあり、雇用環境は徐々に改善へ向かっていると判断される。
生産関係の指標では、4月の鉱工業生産は前月比O.5%と3ヵ月連続で増加した。稼働率も78.7%と水準は依然として低いものの、3ヵ月連続で上昇している。
家計部門の指標では、4月の実質消費支出は前月比0.1%とほぼ横這い、実質可処分所得は同▲0.2%と若干減少した。但し、実質可処分所得は2、3月と高い伸びを示しており、前述のように雇用情勢も回復が予想されることから、今後の所得は緩やかに増加するものとみられる。心理的側面でも、5月の消費者コンフィデンス(コンファレンスボード)は71.6%と2月の47.3%を底に上昇傾向が続いている。こうした所得と消費者信頼の回復により、今後の消費支出は緩やかな増加基調となろう。
物価動向については、3月の消費者物価は総合で前月比0.2%(エネルギーと食料品を除くコア部分も同0.2%)と落ち着いた動きを示した。物価を取り巻く経済環境(賃金、単位労働コスト、設備稼働率等)にも大きな変化がないと予想されるため、当面、物価の安定基調は続こう。
また、3月の貿易赤字は▲58.2億ドルと、1月とほぼ同水準となり、2月の赤字額(▲32.9億ドル)が一時的要因によって縮小したことが確かめられた。今後は景気回復に伴う輸入増に加え、海外景気の低迷や92年1-4月頃までのドル高がラグを伴って輸出に影響を与えることが予想されるため、貿易赤字は緩やかに拡大しよう。
金融関連では、FRBは4月9日にFFレートを0.25%引き下げて3.75%とした後、静観姿勢を維持している。現在の金利水準は歴史的にも低く、景気が緩やかに回復しつつある点を考慮すると、当面の政策金利は現行水準横這いの可能性が高い。但し、マネーサプライM2は依然としてFRBのターゲットレンジの下限近辺で推移しており、今後も低水準の伸びが続く場合には、今一段の緩和の可能性も残ろう。
<日本経済>
日本経済は、製造業を中心として景気の減速感が一層明確になってきている。年末にかけた製品在庫の大幅積み上がりを背景にした減産により、92年1-3月期の生産指数は前年同期比約▲5%の減少と、過去の円高不況を上回るペースで生度調整が行われている。こうした結果、在庫の生産調整圧力は次第に緩和しているものの、製造業の設備投資、自動車等耐久消費財における過剰ストックが依然存在していること、株価の下落基調が持続するなかで全般的な最終需要の伸び悩みがみられるなかで、年度前半一杯は、生産は調整気味で推移する公算が高い。しかし、年度後半については、(1)金利低下の累積的な効果、(2)緊急経済対策の下支え効果による住宅投資や中小非製造業の設備投資の回復、(3)海外景気の回復傾向に基づく輸出環境の改善、(4)在庫調整の進展による減産圧力の緩和等から、緩やかながらも景気は次第に底入れへ向かうとみられる。
足もとの経済指標をみると、4月の鉱工業出荷指数は前月比▲0.5%の減少と、依然弱含みで推移している。注目されている製品在庫については、2月、3月と着実に低下傾向にあったが、4月は、生産指数が7ヵ月ぶりに前月比プラスとなったこともあり、横這いにとどまっている。また4月の住宅着工戸数は年率換算で140万戸と前年同月比では0.4%増と18ヵ月ぶりにプラスに転じた。マンション在庫は依然高水準にあるが、金利低下による持家の増加に加えて、生産緑地法の改正による影響もあり、貸家が増加に転じている。
設備投資関連の指標については、先行指標とされる民間建設受注、機械受注(船始・電カを除く民需)ともに、92年1-3月は前期比2桁の伸びを示したが、4月には反落した。1-3月期の回復は、多分に決算対策上の影響が強く出ているとみられ、設備投資の基調は依然として弱いとみられる。
最大の需要項目である個人消費は、百貨店売上の伸びが前年比でマイナスの伸びを続けるなど悪化が目立ってきている。ただし、これには法人需要の剥落による影響が出ているとみられ、消費の実勢をより正確に繁栄するとみられる家計調査ベースでみれば、1-3月期は前年同期比2.9%の増加と比較的堅調な推移を見せている。株価の下落による逆資産効果が一部現れている可能性があるが、雇用面は依然として底堅く、物価面も次第に安定基調を取り戻してきたことから、大きく消費が崩れる可能性は低いとみられる。
最後に、国際収支の動きをみると、91年度の経常黒字は901億ドルと前年の337億ドルから急速に拡大している。この背景には、金貯蓄口座や湾岸支援金等の一時的要因もさることながら、本質的には国内需要が低迷するなかで輸入が減少していることが挙げられる。92年度についても、輸入が低い伸びにとどまる公算が高いこと、輸出が海外景気の回復を繁栄し、堅調に推移することを考慮すれば、黒字の拡大基調が持続するとみられ、対外摩擦の一層の深刻化が懸念される。
<イギリス経済>
イギリスでは、90年半ばから始まった今回の景気後退は、既に戦後最長のものとなっているが、4月に実施された総選挙で保守党勝利となったため、労働党政権下で予想されていた増税、利上げの懸念がなくなり、このところ、消費者コンフィデンスが改善している。このことから、景気はこの春にも回復に転じることが予想されている。
物価回では、4月の消費者物価上昇率は、前年同月比で4.3%と、3月の4.0%から上昇したものの、概ね落ち着いた基調が続いている。これは、景気減速に伴う雇用調整の進展により、労働コスト面からの物価上昇圧力が緩和していることが背景である。
国際収支については、91年半ば以降、海外景気の悪化による輸出の減少等から、貿易収支、経常収支ともに再び赤字が拡大する傾向にある。4月の貿易収支は▲14億ポンド、経常収支は▲11億ポンドとなり、1-3月期平均(貿易収支▲10億ポンド、経常収支▲7億ポンド)より各々赤字幅が拡大した。
<ドイツ経済>
旧西独(以下、西独)では、景気の調整局面が続いている。92年1-3月期の実質GNP成長率は前期比1.8%と、91年10-12月期の同▲0.5%から急回復となったが、これは、労働日数が例年より多かったことや暖冬などの特殊要因によるところが大きく、4-6月期はこの反動から前期比マイナス成長となる見込みである。
5月の消費者物価は、前年同月比4.5%と、4月(4.6%)を下回ったものの、依然、連銀が「容認しがたい」としている4%台の水準にとどまっている。しかし、92年度の賃金上昇率が総じて91年度を下回ったことから、今後、物価上昇圧力は徐々に緩和しよう。また、7月には、91年7月に実施された間接税増税による見掛け上の底上げ効果の一巡から、物価上昇率は前年比で約0.8%低下することが見込まる。
国際収支については、92年1-3月期の貿易収支は55億マルクと91年10-12月期の118億マルクより黒字幅が縮小した。これは、暖冬等の影響による1-3月期の生産拡大を背景に翰入が増加したことによるとみられる。
(1992年07月01日「調査月報」)
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