1992年05月01日

経済の動き

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<米国経済>

91年10-12月期の実質GDP(確定値)は前期比年率0.4%のプラス成長と、7-9月期の1.8%に比べ伸び率はpp幅に鈍化した。92年1-3月期にも、依然として横這いの指標が多いものの、個人消費や住宅着工等、横這いから増加に転じているものもあり、景気は緩やかではあるが回復に転じているとみられる。

3月の非農業部門雇用者数は前月比1万9千人増加となったが、政府部門を除いた民間部門で見た場合には、同▲2万人と減少している。同時に2月の増加幅も当初の同16万4千人増から同10万7千人増へと下方修正される等、雇用環境は依然としてきびしい状況にある。

生産関係の指標では、2月の鉱工業生産は前月比0.6%と4ヵ月ぶりに増加に転じたが、稼働率は78.2%と昨年8月以降、一貫して80%を下回る低い水準で推移している。

家計部門の指標では、2月の実質消費支出は前月比0.6%増と2ヵ月連続で高い伸びを示し、実質可処分所得も同0.7%の増加となった。3月の消費者コンフィデンス(コンファレンスボード)も54.0%と2月の47.3%から上昇しており、消費マインドも緩やかではあるものの回復しつつある。但し、低い貯蓄率や依然として高い債務残高を考慮すると、消費が現在のペースで拡大し続ける可能性は低いと思われる。

また、住宅については、2月の着工件数が前月比9.6%増と1月(同6.4%)に続いて大幅増を示した。こうした住宅投資の増加は、91年下期における長期(モーゲージ)金利の低下がようやく影響し始めていることを裏付けている。但し、住宅着工件数の伸びは、他の指標同様、過去の景気回復刻に比べれば緩慢であり、この点からも、今回の景気回復力はこれまでになく弱いことが予想される。

物価動向については、2月の消費者物価が総合で前月比0.3%、エネルギーと食料品を除くコア部分が同0.4%なった。一方、2月の生産者物価は同0.2%、コア部分は同0.1%となっている。景気が底這い状況にある中、原油価格は低位安定の推移となっており、当面の物価上昇懸念は小さいと予想される。

金融関連では、FRBは91年中に5回の公定歩合引下げを実施した結果、足元の公定歩合は3.5%と64年以来の低水準にある(FFレートは4%)。FRBはこれまでの金融緩和による景気刺激効果を見極めるため、当面の金融政策は現状維持のスタンスを堅持すると予想される。



<日本経済>

○策気は当面調整局面が持続、回復は92年度下期

日本経済は足元減速感がさらに強まりつつある。昨年末にかけた製品在庫の積み上がりを背景に、足元、在庫調整が本格化しており、生産指数は次第にマイナス幅を拡大させている。先頃発表された91年10-12月の実質GNPは前期比年率▲0.2%のマイナスであった。民間住宅、民間設備がともにマイナスとなる一方で、最大の需要項目である民間消費についても、前期比年率0.4%増とほぼ横這いにとどまっている。こうした内需低迷の下で、輸出は拡大傾向を強めている。91年度の実質GNP成長率は3%半ばとなりそうであるが、経常海外余剰の成長への寄与度は1%を上回る高い数値となる可能性が高い。ただ、足元の月次指標には一部明るさが見え始めている。地価下落を背景とした分譲の悪化を主因に低迷していた住宅着工に回復の兆しがみられている。92年1-2月の住宅着工戸数(年率)は、約140万戸と、昨年10-12月期の約130万戸から回復に転じている。3月から住宅ローン金利の引き下げがあり、金利低下の着工戸数への本格的な影響が今後出てくることを考えると、92年度の住宅着工はかなりの増加となる公算が高い。また、懸念されている在庫の積み上がりについても、92年に入り、在庫率は順調に低下しており、在庫積み上がりの生産調整圧力は次第に縮小している。

海外経済にも回復の兆しが見え始めており、足元、国内需要の低迷による輸出ドライブの動きが、次第に、為替安定、海外経済の回復を背景とした自立的輸出増加へとバトンタッチされる見込みである。

さらに、物価も次第に安定基調を取り戻していること、政府の総合経済対策等も景気に対してプラスの効果をもたらそう。このため、足元調整局面にある日本経済は、92年度半ばに底を打ち、次第に回復に転じるものとみられる。

先行きにかけての最大のリスクは株価動向とみられる。株価が予想以上に下落すれば、逆資産効果を通じて民間消費を抑制しよう。また、企業の有価証券含み損増大に伴ない、営業外損失の増加が経常利益を圧迫し、設備投資が抑制されて成長率をさらに低下させる危険性もある。

こうした場合、足元大幅に拡大傾向にある対外黒字が、成長率の鈍化を背景とした輸出ドライブを通じてさらに拡大する恐れがあり、対外摩擦の一層の激化が懸念される。



<イギリス経済>

イギリスの91年10-12月期の実質GDPは前期比▲0.1%のマイナス成長となった。この結果、90年半ばから始まった今回の景気後退期間は過去50年間で最長のものとなった。足元の生産、消費関連の経済指標もみると、依然、景気減速を示している。物価面では、消費者物価上昇率は、2月も前年同月比で4.1%と落ち着いた推移を続けている。これは、景気減速に伴う雇用調整の進展により、労働コスト面からの物価上昇圧力が緩和していることが背景である。

国際収支については、91年半ば以降、海外景気の悪化による輸出の減少等から、貿易収支、経常収支ともに再び赤字が拡大する傾向にある。2月の貿易収支は11億ポンド、経常収支は8億ポンドのそれぞれ赤字となった。



<ドイツ経済>

旧西独(以下、西独)では、景気の減速傾向が持続している。91年10-12月期の実質GNPは前期比▲0.5%のマイナス成長となった。特に、企業収益の悪化による設備投資の減少や世界景気の低迷による輸出の低迷が景気減速の主な要因とみられている。しかし、失業率は低く、設備稼働率は相対的に高い水準にあることから、現在の景気減速過程は「リセッション」ではなく、通貨統合により加速していた景気拡大テンポが通常のスピードに戻る「調整局面」と認識されている。

物価については、3月の消費者物価は、タパコ増税の導入から前年同月比4.7%の高水準に達した。なお、今後の物価動向は基本的には、現在も交渉中である92年の春闘での妥結賃上げ率に大きく影響される。ただ、昨年7月からの間接税増税による物価押し上げ効果(約0.8%)の一巡から、今年7月には、物価上昇率は見掛け上、大きく低下する見込みである。

国際収支面では、世界景気の回復の遅れ等から、1月の貿易収支は9億マルクの赤字となった。また、ソ連・東欧向けの援助費用の支払いにより移転収支が悪化していることもあり、1月の経常収支は64億マルクの赤字となった。

(1992年05月01日「調査月報」)

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