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<米国経済>
91年10-12月期の実質GDP(速報値)は前期比年率0.3%のプラス成長と、7-9月期の1.8%に比べ伸び率は大幅に鈍化した。純輸出、住宅投資、在庫投資がプラス成長に寄与した反面、GDPの最大項目である消費支出が3四半期ぶりのマイナスに転じており、景気実体は依然として低調であることを裏付けた。
12月の非農業部門雇用者数は前月比3万1千人増加と11月の大幅減少と比べると改善している。但し、その内訳をみると、雇用増の主因は、政府部門とヘルスサービス部門(今回の景気後退期において数少ない雇用増大部門)であり、この2部門を除くと前月比▲8万人の減少となっている。
生産関係の指標をみると、12月の鉱工業生産は前月比▲0.2%と3ヵ月連続の減少、設備稼働率も79.0%の低水準に止まっており、生産活動は依然として底這い状況にある。
家計部門の指標では、12月の実質可処分所得が前月比0.8%増となったものの、実質消費支出は横這いとなっている。1月の消費者コンフィデンスも50.4%と、82年の景気後退時を下回る水準にまで低下している。低い貯蓄率や依然として高い債務残高を考慮すると、消費が力強い回復に向かうにはなお時間がかかると予想される。
一方、住宅については、12月の着工件数、許可件数ともに前月比増となっている。また、住宅関連指標のなかでも先行性がある中古一戸建販売件数は、10月以降3ヵ月連続の前月比増となっている。今後、住宅部門では、これまでの金利低下を受けて主に一戸建住宅を中心に回復することが見込まれる。
物価動向については、12月の消費者物価が総合で前月比0.3%、エネルギーと食料品を除くコア部分が同0.3%と落ち着いた動きを示している。景気が底這い状況にある中、原油価格は低位安定の推移となっており、当面の物価上昇懸念は小さいと予想される。
ブッシュ大統領は1月29日に、93年度予算教書を発表した。停滞する景気動向に対処するため、今回の予算教書には包括的景気刺激策が盛り込まれているが、減税規模は小さく、しかもキャピタルゲイン減税に対しては民主党の強い反対が予想される等、実際の景気刺激効果は限定的なものに止まろう。なお、同日、グリーンスパン連銀議長は議会証言を行い、これまでの一連の金融緩和は景気刺激に十分に有効であると述べている。金利はボトム圏とみられるが、FRBは今後の景気動向や財政面からの景気刺激効果を見守る中、景気実体が底這い状況にあることを勘案すれば、公定歩合は3.5%で据え置き、FFレートは小幅引き下げの可能性が残ろう。
<日本経済>
○景気は当面調整局面が持続、回復は92年度下期
日本経済は減速傾向を持続している。日銀短観(91年11月調査)によると、企業の景況感は足下急速に後退している。同調査の3月時点の業況判断DI(「良い」-「悪い」、社数構成比、%)予測をみると、主要企業・製造業のうち素材業種、また、中小企業では製造業がともにマイナスに転じる見込みである。この背景には、予想以上の景気減速に加えて、株価の低迷、不動産不況の長期化、米経済の低迷等が挙げられる。
一方、景気減速を背景に長期金利は大きく低下している。長期プライムレートは、91年12月の6.9%から92年2月には6.0%にまで引き下げられた。これを受けて住宅ローン金利も低下、住宅投資を巡る環境は大きく改善している。特に、金利感応度が高い住宅投資については、マンション不況が持続しているものの、持家を中心に底入れの兆しが見え始めてきた。また、貸家についても、税制改正による影響から、3大都市圏内の市街化区域内農地での貸家建設の活発化が予測され、今後、住宅投資は次第に上向きに転じるものとみられる。
また、設備投資については、建設受注・機械受注の落ち込みに反映されている通り、依然ストック調整局面にあることは否めないが、(1)稼働率の水準は依然高く、(2)出生率の低下・労働時間の短縮化を背景とした労働代替投資、(3)長期的ビジョンを見据えた研究開発投資等には根強いものがあり、設備投資の底割れは避けられよう。92年度後半には、海外景気の回復、金利の低下、住宅投資・公共投資等内需の回復に支えられ、設備投資も次第に底打ちに向かうものとみられる。
最大の需要項目である民間消費については、景気減速が続くなか、相対的に堅調が持続しており景気の底割れを防いでいる。大都市圏内の百貨店売り上げ、自動車販売は低迷しているが、これにはパブルの後遺症が過大に表れている部分があり、これらが消費全体の基調を示していると考えるのは早計である。消費全体をみる上で、家計調査報告をみると、堅調な伸びが続いている。今後についても、92年度の春闘賃上げ率が91年度の5.7%から幾分低下するとみられるものの、(1)雇用情勢の堅調が持続する、(2)円高、商品市況の軟化を背景として物価上昇率が低下する、(3)円高を背景として海外旅行者が増加する、(4)時短を背景としてサービス消費の拡大が続くこと等から、今後とも堅調を持続するものとみられる。
物価については、WPIは、円高、原油価格の下落等により前年比でマイナスに転じるなど落ち着きがより鮮明になってきている。CPIについても、年末にかけて台風による生鮮食品の値上がりから大きく上昇していたが、再び落ち着いた動きとなってきている。労働需給の長期的逼迫が続くなかで大きな低下は見込めないものの、当面、景気減速を背景に、コアインフレで2%前半の落ち着いた動きとなろう。
一方、対外関係に目を転じると、足下黒字の拡大がより鮮明化している。91年の貿易黒字は1000億ドルを上回る数値となっており、直近の10-12月だけの数値をみると、年率で約1200億ドルに達している。地域的にみても、対東南アジア、ECのみならず、わずかながらも対米黒字も拡大に転じてきており、ほぼ全地域に対して黒字が拡大傾向にある。こうしたことから、先の日米首脳会議、G7でも円高基調が望ましいとの合意がなされた模様であるが、92年度前半まで国内需要の低迷が予想されるなか、黒字がより一層拡大する可能性が高く、日本は対外的に苦しい立場に立たされる可能性がある。
<イギリス経済>
イギリスの91年7-9月期の実質GDP成長率は前期比0.1%と僅かにプラスとなった。しかし、11月の鉱工業生産は前月比▲O.7%、12月の小売売上数量は同▲1.0%と、足下の経済指標は依然、落ち込みを続けており、景気の基調としては依然低迷状態にあると言えよう。英産業連盟(CBI)による91年10-12月期の英企業の景気信頼感も、海外景気悪化による受注の落ち込みを背景に大幅に低下した。
一方、物価についてみると、小売物価(消費者物価に相当)上昇率は、落ち着いた推移を続けている。これは、景気減速に伴い雇用調整が進み、労働コスト面からの物価上昇圧力が緩和していることが要因となっている。
国際収支面については、91年10-12月期の経常収支の赤字は▲5.3億ポンドと前期(▲4.5億ポンド)より拡大した。海外景気の悪化による輸出の減少から、貿易収支、経常収支ともにこのところ赤字は拡大傾向にある。
<ドイツ経済>
旧西ドイツ地域(以下、西独)では景気は減速傾向が持続している。91年10-12月期の実質GNPは、前期比ほぼゼロ成長となった模様である。支出項目の内訳をみると、内需が全般的に低調である一方、外需の伸びが景気を下支えした形となっている。ただし、これも内需の不振を反映して輸入の減少が大きかったことが理由である。
物価面では、労働コスト面からの物価上昇圧力を背景として、生計費(消費者物価に相当)上昇率は4%程度の推移が続いている。今後の物価動向は92年春闘における賃上げ妥結率に大きく影響されるが、先頃、鉄鋼労組が6.4%の高率賃上げを獲得した。かねてより、政府・連銀とも「賃上げ率は5%以下か望ましい」としていただけに、インフレ懸念が再び強まっている。
国際収支については、輸出の増加と輸入の伸び悩みにより、貿易収支は91年8月以降黒字で推移しており、11月は38億マルクの黒字となった。経常収支も11月には12ヵ月振りに黒字(17億マルク)に転じた。
(1992年03月01日「調査月報」)
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