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- 1991年の世界と日本
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イラクのクウェート侵攻、併合に伴ってアラビア半島に起こった緊張に対して、世界はどう取り組むかということで、1990年後半を忙殺されたわけである。世界と同様、日本もイラクの侵略を排除するために日本は何ができるかという、所謂中東協力問題を巡って特別国会が開かれたが、全体としての方向感覚、新しい時代の世界平和を如何にして確保するかという世界的戦略の無いままに、国連協力とか自衛隊の海外派遣とかの技術論に終始して、やがて迎える冷戦解消後の世界平和確保のための基本的枠組みについて世界的にも国内的にも明確な組織づくりが浮かんでこないままに、年が暮れたと言えよう。
本年を展望してみても、基本構想の不明確さは一朝にして解消しそうもなく、1991年というのも新しい時代、組織を創り出す模索の年に終わるような感じがする。確かに鉄のカーテンの崩壊によって、欧州での兵力の衝突の危惧は大きく減退したとはいえ、又、米ソ超大国支配の時代が終わったとはいえ、そのことのためかえって欧州以外の地域での武力衝突の可能性が大きくなったというのは、大変悲しむべき皮肉である。平和を愛好し世界平和の達成を念願する日本としては、一日も早く国際協力と主要国の連帯責任による世界平和維持機構が確立されるように、あらゆる努力を重ね、必要な貢献を厭ってはならないであろう。
確かに、欧州からは武力衝突の危険は大きく取り除かれることになったけれども、東欧、ソピエトが平和の配当を生かして欧州の再活性化、あるいは市場経済に基づく経済基盤のしっかりした欧州を造ることについては、未だに確とした展望を持てないままに年を終えた。東欧、ソ連の通貨が交換性を回復して、市場経済に基づく世界の自由貿易体制に参画できるためには、蔓延している社会主義経済特有の安易さから抜け出て、本当に説得力のある効率の高い市場経済がいつ出現できるかにかかっているが、巨額の西側らの援助を受けて今年いっぱいの努力を重ねても、なお将来の展開にまたねばならない恐れがあろう。又、吹き出した民族主義がこの問題を一層複雑なものとしている。
また、中東の危機がどのように解決されるにしても同地域の永続的な平和維持機構の樹立ということになれば、これもまた将来の予測のつかない難しい問題を抱えており、ただ日月のみが解決できるといった面は否定できないと思われる。イスラム文化圏の西側及びキリスト教文明に対する反発、抗争という大袈裟な考え方をしなくても、生活水準が低く主な資源である石油の支配を先進工業国に引き渡さざるをえなかったアラブ諸国にとって、北側先進諸国との間で持続する平和共存の仕組みがどのような形で可能かということも、今年一年をかけての課題となるのではないかと思われる。
更に、長く救済の手を待っているアフリカ諸国、累積債務に悩む中南米諸国についても、将来の展望というのはそう明るいものとは言えないように思える。まして、米国に既にその萌芽が表れている世界的な景気後退の機運は、自由世界全体に影響しないわけはないので、世界経済再建のために強い経済力と巨大な資本が必要とされる本年に、世界経済が全体として弱体化し、必要な資本の調達が困難になっていきそうであるという点をどう解決していくかも、今年の大きな課題となるであろう。
翻って、日本の国内をみても、湾岸協力のために開かれた特別国会は遂に何らの成果を生むことなく、国民に虚脱感を与えたままであり政治に対する不信を深めたと言わざるをえない。政治の世界には、選挙制度改正、金権による政治腐敗の防止等政治の再活性化や国民の信頼回復のために必要とされている課題は、今や火急のものとなっている。いったい日本が強力な政治体制を確立して、世界に通用する立派な指導者を生み出すことができるかどうかは、やはり今後の大きな課題であろう。気掛かりなことは、ウルグアイラウンドの決着が関係国を満足させることにならず、保護主義、ブロック化の傾向を強めるばかりでなく、日米構造協議のフォローアップもからんで日米摩擦を更に激化させる火種となりうることである。
1991年は、日本が心を引き締めて取り組んでいかなければならない大事な決定的な年になると思われる。21世紀が本当に希望に満ちた世紀であるためには、日本は積年の宿弊を一挙に打ち壊すべきであり、90年代はそれを成し遂げる総決算の10年になろう。今年は、その90年代に本格的に入っていく重要な節目の年となるのではなかろうか。
(1991年01月01日「調査月報」)
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