1990年12月01日

世界的資金不足について

細見 卓

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先にこの欄で述べたように、先般のヒューストンの先進国首脳会議においては、欧州諸国はソ連東欧の経済再建に必要な資金の提供を開始し、日本は中国への二国間援助を再開するというような言わば各々関係の深い所にばらばらな形で資金協力を行うことが認められた。勿論、東欧の再建のためには欧州復興開発銀行の設立が決められているし、また世銀、IMFを中心として累積債務国への大規模な資金還流計画、所謂ブレイディプランが動いており、言うまでもなく日本はその主要な一翼を担っている。この他アジアについてはアジア開発銀行があり、中南米については米州開発銀行があり、アフリカについてはアフリカ開発銀行というように、地域経済発展のための資金供給を企図した国際機関が存在している。また、意外と思われるかもしれないが、EC内の後進地域の開発のためには欧州投資銀行というのがあって、先進国で起債による資金調達を活発に行って資金を供給している。このように、発展の遅れた地域の経済発展のためには多数の金融機関が存在しているが、資金を供給する側は全ての機関に共通に米国、日本、欧州先進国といった限られた国々であり、かれらの資金が活動の原資になっている。

先進諸国の金融資本市場の状況をみると、日本、米国やあるいは欧州市場における株式の暴落が起こるとともに、インフレ懸念による高金利と金融引締め政策が実施されている。依然として巨額の双子の赤字を抱える米国に加え、日本と並んで貿易収支が好調で最も期待される資金供給国であった西独も、今や東独の統合に伴う経済再建のために殆どその経済力を注入せざるを得ず、東欧や世界全体の経済発展に資金を提供できる余裕は少ないようにみえる。日本もまた、米国におけるほど金融機関の困難を原因とする信用収縮はないものと思われるが、しかし往時の世界の金融市場を闊歩するが如きのカは失いつつあるようである。なぜなら、日本の家計貯蓄率が高度成長期に比して近年低下傾向にあり、更には今後の高齢化社会を視野に入れると、日本の貯蓄余力も楽観を許さない状態であろう。

このような主要な資金供給国であった米国、独、日本ともに資金カに翳りがみられるのに反して、従前から問題になっている中南米諸国の累積債務問題の処理は遅々とした歩みであり、サブサハラの経済困難も少しも改善されていない。それらの懸案に加えて、ソ連東欧の経済再建という壮大な資金を必要とする世界的な大計画が発生し、またイラク紛争をめぐってアラビア半島の救済のための資金需要も著大になりつつある。つまり、どう考えてみても、世界全体の資金需要とそれに対応する供給能力との間に恐るべきギャップが生まれていると思われる。

世界的な規模で、経済の発展と図窮からの脱却を資金的に賄っていくことが、大きな試練に立たされていると思わざるを得ない。世界の指導者達がこの現実に目覚めて、今後どのように対応していくかについて真剣な検討をすることを強く望みたい。

(1990年12月01日「調査月報」)

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