- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- IMF・世銀総会を振り返って
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
本年のIMF・世銀総会がワシントンで開催され、小職も出席したので感じたことを若干述べてみたい。
IMF・世銀総会はその参加国、参加メンバーとも年々増加しており、言わば国際金融の一大年中行事となり、表面だけを見れば問題なく絶えざる発展を続けているようにみえる。しかしながら、一皮むくと石油ショック直後のように各国が経済困難に瀕して苦渋するとか、総会出席者が減少するとかという事態は過ぎ去ったが、今なお発展途上国の累積債務問題が根本的に解決したわけではなく、国際通貨制度の安定あるいは新しい国際通貨制度の構築といった課題の解決についても前進はみられない。今回の総会においても、その感は免れなかった。
一般的に、IMFは国際通貨制度の安定を図るものであり、どちらかと言えば国際的な資本移動、資本不足、インフレといった国際通貨制度を脅かすものについて、短期的、中期的に対応するための機構である。しかしながら、昨今においては国際金融不安の原因となる資金不足やインフレに対処するには、IMFの資力が著しく制約されたものであり充分な体制を有しているとは言えないため、この際IMF強化のために大幅な増資を望む声が高まっている。この場合に、敗戦国として戦後スタートした日独の経済的地位が、今日では根本的に変わっており、両国の国際金融面での役割の増大に対応する措置がとられるべきだというのは、日本の意見ばかりでなく国際世論となっている。ただ、相対的に力の低下した国などの多少の反発もあり、また資金負担の増大を恐れる米国の躊躇もあって今回は増資問題の決着には到らず、年内引き続きの検討に委ねられることとなった。
世銀についていえば、累積債務問題なかんずくメキシコについてはかなりの前進がみられ、世銀の役割も発揮されることになったのは喜ばしいことである。しかし、同様のことが他の国でも可能かどうかは誰もが確信を持っているわけではない。
今日の累積債務問題は、言わば債務国の経済構造の根本的変革を待たなければ解決できないものであって、そのためには構造改善政策と長期巨額の援助資金が必要となる。この構造改革はその債務国の政治経済全般の統治能力の向上によってのみ実現可能であることから、財政金融政策を主として監督するIMFと、産業発展のための資金供給と指導を行う世銀との間に密接な協力、更には統一的な共同政策が不可欠になるであろう。この点については、進歩の跡はみられるが、まだ不充分の感も強い。
以上のようなことで、世界経済の相対的安定ないしは活況に支えられて当面の破綻は避けられてきているけれども、現状で世界経済の停滞を避けるのに十分かどうかについて前向きの検討と準備が進められているとは、残念ながら言えないのが実情であろう。
(1989年11月01日「調査月報」)
このレポートの関連カテゴリ
細見 卓
細見 卓のレポート
新着記事
-
2025年08月15日
マレーシア経済:25年4-6月期の成長率は前年同期比+4.4%~堅調な内需に支えられて横ばいの成長に -
2025年08月15日
グローバル株式市場動向(2025年7月)-米国と日欧の関税大枠合意により安心感が広がる -
2025年08月15日
生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのか -
2025年08月15日
QE速報:2025年4-6月期の実質GDPは前期比0.3%(年率1.0%)-トランプ関税下でも輸出が増加し、プラス成長を確保 -
2025年08月15日
地方で暮らすということ-都市と地方の消費構造の違い
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【IMF・世銀総会を振り返って】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
IMF・世銀総会を振り返ってのレポート Topへ