1989年07月01日

スーパー301条への対応について

細見 卓

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全ての日本の貿易関係者あるいは経済運営に携わっている人々の切なる期待に反して、日本はスーパー301条の適用対象国となり、通信衛星、スーパーコンピューター、木材製品の貿易に関して厳しい改善措置を要求されることとなった。二国間交渉において、当初から報復をちらつかせながら譲歩を迫るということは、対等、自由であるべき国際貿易の分野において、いきなり脅迫と保護主義の斧を振り上げることになるわけで非常に残念なことである。この点では、官民各方面で強い反発が起こっているのもうなずけるところである。

しかしながら、日米の経済関係というものは、このようなぎくしゃくした摩擦があるなしにかかわらず、双方にとって言わば最大の貿易相手国として非常に深い相互依存の状態に到っており、他に代わるべき紹手をみつけることは不可能と言えるであろう。このような現実についての、十分な認識に基づいて行動しないで、徒に感情的な反発や売り言葉に買い言葉の対処は厳に避けなければならないと思われる。

その意味で、私は歴史を振り返ってみて次のような事例を思い出す。米国が対日移民法を実施することとなり、日本の朝野が激昂した時に、時の駐米参事官であった幣原喜重郎氏(その後総理大臣)に対して、英国の駐米大使ジェームズ・ブライス氏が以下のような忠告をしたと言え。米国は時に外国に対して不正行為を犯すことがある、しかし米国人は自己の発意でそれを矯正するのが歴史の証明するところであるので、日本は理性的に対応すべきである。そして、英国もパナマ運河の運行に関する措置で、米国に対して非常に激昂したが、我慢して理性的に交渉を続けているうちに米国の発意でそれを解決したという経験があるのだと。この忠告は、まさに日本国民が現在、想起すべき有益な助言ではなかろうか。

実際のとこ、米国では既に新聞論調その他で、スーパー301条の適用は間違った措置であるとの批判も出ている。また、USTRも議会の強い圧力に抗することはできなかったが、適用に際しては改善の期待できる分野に絞るとか、表現を柔らかにするとかの点でその努力が垣間見られるのであるから、ここで感情的になり米国に対し理性を失った対応をとるべきではないと考える。そのような暴には暴という対応は、両国関係を実り薄いものとし、場合によっては破滅的な方向へと導きかねないと思われる。

今乙そ、慎重に理性的に相手の非を正さすよう粘り強く処してゆくべき時であろう。

(1989年07月01日「調査月報」)

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