コラム
2010年04月28日

不動産のハイエンド志向とユニクロ志向

  松村 徹

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情報機器や自動車などの消費財と同様、オフィスビルや住宅といった不動産分野でも、最上級のものを開発する「ハイエンド志向」が目立つ。特に、不動産は長期利用・保有される実物資産であり、立地の希少性や規模の大きさ、建築・設備スペックの高さが評価されることと無縁でない。たとえば、オフィスビルでは、AクラスやSクラスといわれる都心の新築大型ビルが最上位に当たる。競争力の強いビルの条件として「近・新・大」がキーワードになったのは十数年前だが、いまや「近・新・大・エコ」が、このようなハイエンドビルと同義語になっている。オフィスビル以外では、都心の外国人向け高級賃貸マンションやブランド立地の高級分譲マンション、ラグジュアリーホテルといわれる高級シティホテル、コテージ型の高級リゾートホテルなど、不動産の「ハイエンド志向」を示す例は多い。

しかし、「安かろう、悪かろう」不動産は論外にしても、すべての不動産プレイヤーが「ハイエンド志向」では、ボリュームゾーンの多くの顧客を逃してしまうことになるのは自明である。そもそも、ハイエンド不動産は、景気感応度が高く、収益変動も大きいハイリスク資産、という見方もある。そこで、われわれは5年前に、「アッパーミドルクラス」1というカテゴリーのオフィスビル開発に注目した。これはオフィス市場のボリュームゾーンでもかなり上層部を狙った事業戦略である。一方、ボリュームゾーンの中心にある「ミドルクラス(あるいはBクラス)」に特化したポートフォリオを目指すJ-REIT(不動産投信)もいくつか現れた。しかし、当時は投資市況が過熱していたこともあり、割高なCクラスビルしか取得できないケースも一部にみられた。

経済のデフレ傾向が強まる現在、多くの企業や消費者、投資家に強く望まれているのは、「ユニクロ志向」ともいえる不動産ではないだろうか。すなわち、耐震性能や省エネ性能など躯体・構造や設備といった基本性能はしっかりしているが決してオーバースペックではなく、質感やデザイン、使い勝手などの品質も一定水準を維持しており、なおかつ賃料や価格が安くコストパフォーマンスに優れた不動産である。これは、耐震偽装問題を引き起こした「安くて広いが脆い」マンションとは似て非なるものである。すでに、住宅評論家の櫻井幸雄氏は、「ユニクロマンション」という呼び方で、このような特性を持つマンション企画に注目している。世界中からヒト・モノ・カネが集まる東京に比べ、地元の実需中心で、顧客の賃料負担力や所得水準が相対的に低い地方都市では、このような商品企画が特に歓迎されよう。

また、少子・高齢化で国内市場の縮小が懸念される中、業種を問わず、巨大な消費市場を擁するアジア圏の開拓が叫ばれているが、代表的な内需産業である不動産業においても、持続的成長のためにはアジア内需を無視することはもはや不可能である。すでに、中国人向け住宅や商業施設の開発プロジェクトが相次いで動き出しているが、ロシアや豪州の住宅市場を狙う企業もある。その多くは、先頃の不動産ファンドブームでみられた短期のリスクマネーに頼った安易な不動産投資とは一線を画す、長期の事業戦略に基づくものだ。その際、「ハイエンド志向」で日本の不動産の品質の高さやブランドイメージをアピールすると同時に、「ユニクロ志向」の商品でボリュームゾーンをしっかり確保する戦略が重要になってくると思われる。
 

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