コラム
2007年12月03日

利益率格差から経営戦略の有効性を考える

  小本 恵照

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1.利益率格差の分解と経営戦略論

利益率の定義には様々なものがあるが、共通する性質は企業活動の成果を最も直接的に示す指標だということである。全ての企業は利益率の向上を目指して経営を行っているといって過言ではないが、利益率の分布をみると企業間に大きな格差が存在する。増収増益を続ける企業群がある一方で、赤字が続き倒産直前という企業群が存在する。

利益率の格差は、産業間格差と産業内格差に分解することができる。産業間格差については、産業構造の差によるところが大きい。有名な理論としては、ポーター教授のファイブ・フォース分析がある。「供給企業の交渉力」「買い手の交渉力」「企業間の競争関係」「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」という産業構造を規定する5つの要因が企業の利益率を決定するという考え方である。つまり、供給企業や買い手の交渉力が弱く、企業間の競争が激しくなく、新規参入や代替品の脅威が少ない場合に高い利益率が得られるという考え方である。これは、産業構造といういわば企業外の要因によって主として利益率が決定されていると考えていることになる。この考え方のもとでは、高い利益率を目指す企業は、上記の5つの要素からみて望ましい産業を選択することが重要となる。

しかし同一産業内でも利益率格差は見られる。たとえば、電気機械業では、東芝が高収益を挙げる一方で、三洋電機は再建途上にある。ビール業界では、アサヒビールとキリンホールディングスが高い利益率を維持する一方で、サッポロホールディングスは低い利益率に甘んじている。同一の事業を行っていても利益率格差が生じる原因については、企業内部の経営能力に差があると考えられる。その考え方の基礎となる理論は、資源ベース理論(resource-based view)や動態能力(dynamic capabilities)などが代表的な理論である。そこでは、変化する経営環境の中で、希少で、価値があり、代替性がなく、他の企業が容易に模倣できない経営資源を蓄積し活用できる企業が高い利益率を獲得していると考える。また、経営環境が変化する中で、経営資源を操作し新たな価値を生み出す戦略を生み出す能力を有していることも必要と考える。つまり、産業構造という企業の外部要因ではなく、企業がその内部に保有する能力の違いが利益率の格差を生み出していると考えるのである。

2.企業内部の能力向上を進める経営戦略が求められる

上記の2つの理論は代替的な関係ではなく補完的関係にある。参入障壁が高い産業に属しているほうが利益率を高める上で有利なことは当然であり、一方で、同一産業内での競争には企業の内部要因が関係するのも当然だからである。したがって、経営戦略を考える上で重要となるのは、両要因の相対的な重要度になる。産業要因が決定的に重要だとすれば、高い利益率の挙がっている産業に事業をシフトさせることが不可避となる。一方、企業の内部要因が重要ならば、企業が保有する経営資源をより効果的に活用できる産業で最善の経営努力を傾注することが望ましい戦略となる。

産業要因と企業の内部要因のいずれがより重要かを判断するために、上場企業4536社(33業種)の2006年度決算をもとに、実際に産業間と産業内の利益率格差の大きさを計測してみた。具体的には、産業の利益率の標準偏差(産業間格差)と各産業内の企業の利益率の標準偏差(産業内格差)を計算した(図表1)。これを見ると、産業の利益率の標準偏差を下回る業種は1業種しかない。ちなみに変動係数でも計算したが順位は変わらない。これは単年度のデータをもとにした単純な分析であり、明確な結論を得るためにはより厳密な検証が必要なことは言うまでもないが、産業内格差のほうが産業間格差よりもかなり大きいとみて差し支えないと思われる。

この結果から判断する限り、企業が利益率を向上させたいならば、利益率が高い産業を探索して事業をシフトさせるよりも、自らの経営資源に適した産業で他社が真似のできない経営能力を磨くことがより重要となる。そのための経営戦略は、自らの経営資源を直視した上で、組織内部における学習や能力開発が進むような企業組織を創ることにあると思われる。
図表1 利益率の標準偏差の分布

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