コラム
2006年07月10日

開業率の地域間格差の解消に向けて

  小本 恵照

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固定化する開業率の地域格差
企業の開業率の上昇は、新たなビジネス・ノウハウを持った企業の新規参入が増えることを意味し、企業間競争の促進や技術進歩などによって経済成長を高める効果を持つと一般に考えられている。このため、長期的に低下する開業率を高めるために、政府を中心に各種の創業支援が行われている。
しかし、開業率に地域的な偏りがないわけではない。むしろ、開業率は地域によってかなりの偏りがみられるのである。昨年秋に公表された「平成16年 事業所・企業統計調査」の結果を見ると、開業率トップの沖縄県は6.1%であるのに対し、最下位の福井県では2.8%であり、2倍以上の開きがある。つまり、1000社の企業が存在しているとして、沖縄県では1年間に61社が新たに開業するのに対し、福井県では28社の企業しか誕生しないことを意味している。
 

 
こうした地域間格差は、その格差が固定化していないのならば特に大きな問題はないだろう。ある時期に開業率が低くとも別の時期に開業率が高まるのであれば、長期的に見ると地域間格差は解消していると考えてよいからである。しかし、実態はそうではない。図表2は5年前の開業率の上位と下位の10都道府県をみたものであるが、2004年時点の上位10県のうち9県がトップ10入りしている。また、下位10県についても7県がランクインしている。ちなみに、10年前と比較すると、上位10県では7県、下位10県では4県が依然としてランクインしている。つまり、開業率の高い都道府県は長期にわたって高開業率を維持し、開業率の低い都道府県は低位の開業率が続くという、開業率の「地域格差の固定化」が観察されるのである。
 

 
地域格差の意味するもの
また、注目しておきたいのは、開業率と廃業率の関係である。開業率と廃業率の関係には強い正の相関がみられる。つまり、開業率の高い(低い)都道府県は高い(低い)廃業率を示しているのである。開業率が高い都道府県では、企業の新陳代謝が活発に生じていると考えることができる。開業率の地域格差が固定化することは、一方の都道府県では企業活動の新陳代謝が活発化し経済の活性化が続くのに対し、もう一方の都道府県では経済活動の停滞が長期化するといっていいだろう。であるならば、開業率の格差是正に向けた取り組みが必要となる。
 

 
開業率の上位と下位の県のリストを見ると、一部の例外はあるものの、開業率の上位10県には大都市圏に位置する都道府県が多いのに対し、下位10県には地方県が並んでいることに気が付く。過去の開業率の地域格差に関する研究では、地域の需要動向、市場規模、人口構成比、事業所の集積、失業率などが影響を与えているということが明らかとなっている。開業率の地域格差が固定化しているということは、こうした要因が大都市圏では開業率にプラスに強く働いていることを意味している。

地域特性を反映した創業支援策の必要性
最近の景気動向をみると、大都市圏と地方圏の景気回復の格差には依然として大きなものがある。こうした経済活動の格差の存在は、大都市圏の高い開業率をさらに高めることにつながると考えられる。日本経済をできるだけ地域格差なく拡大させるには、経済活性化の主要な要因の一つである開業率の格差を縮小させることが重要な課題となるのではないだろうか。もちろん、地域間には人口構成や産業構成など短期的には変化させることが難しい社会経済的な格差が存在する。しかし、そうした格差を前提とした上で、それぞれの地域の特性に応じた創業支援策が存在すると思われる。そのためには、国が中心に実施している全国一律の創業支援だけに期待するのではなく、それぞれの地域が知恵を絞り、その地域的特性を反映させた創業支援策を講じることが重要である。若年層を中心に創業意欲が低下する中で、地域レベルでの創業活性化が求められている。
 

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