2004年12月25日

建物に対する固定資産税評価の実態(1) -なぜ建物課税への負担感は拡大しているのか-

大柿 晏巳

浅田 義久 明海大学

竹田 浩一 コム・プランニング

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1.
建物の固定資産税を巡る主な論点は、(1)評価は簿価に比べて高く、経年に応じて減価しない、(2)建物の課税評価額にはばらつきがありすぎるのではないか-という2点である。本調査は建物の様々な属性や取得時簿価・評価額、直近の簿価・評価額などに関する個票を分析し、これらの論点に対する答えを得ることを目的とする。
2.
全国から建物個票438 票を回収し、そのうち取得時の評価額と簿価が分かり、築後1年以内に取得した新築物件(異常値を除く)88件を当面の分析対象とした。
3.
集計結果をみると、80年代以降の竣工物件、東京圏立地、事務所利用のサンプル数が多めである。建物規模、階数、構造については、低層から超高層、1,000 ㎡未満~10,000㎡以上、RC やSRC 造りなど、比較的満遍なくデータが確保できている。88件のサンプルの特性は、回収した438票の特性を概ね引き継いでいるものと判断できる。
4.
各物件の直近(2003年)の評価額と竣工年は、竣工からの経年によって、右肩上がりの関係をもつはずだが(新しいほど経年が短く減価が少ないため評価額は高い)、90年代以降において、両者にはかなりのバラツキがあり、バブル崩壊やその後の景気低迷が背景にあるものと考えられる。東京圏の評価の平均値はその他の圏域よりも高めであるし、建物の階数が高まるにつれ面積あたりの直近評価額の平均値は拡大している。建物の構造によって、面積あたりの直近評価額は異なり、SRC 造り、超高層物件を含むその他・複合構造の評価が高めである。
5.
直近評価額は直近簿価の影響をある程度は受けていると考えられるが、取得時における評価額の方が取得時簿価との相関がより高い。竣工年と直近評価額/取得時評価額(評価額の減価率)との関係をみると、80年代前半までは減価率は横ばい、80年代後半から低下、90年代後半から2000年にかけては1.0に近似するという3つのグループに分かれている。特に、90年代後半以降のグループは建物課税への負担感を高めているものと推察される。直近評価額の減価率と、所在地、建物階数、構造、用途との関係は判断しにくくなっており、これらは評価に対し複雑に影響しているものと考えられる。
6.
評価額の減価率と簿価の減価率との関係をみると、固定資産税評価は建物の市場価格とも言える簿価よりもほぼ全サンプルについて減価が進んでおらず、納税者の負担感につながっているものと判断される。
7.
課税評価額と簿価の比率を取得時と直近で比べると、前者の平均は7割評価と言われるものの実際には0.623となっている。後者は7割どころか0.987と高く、バラツキも非常に大きい。つまり、取得時にある程度納得できる評価が行われているとしても、直近の評価となると納税者の負担感は高まり、バラツキの大きさから不公平感も強まっている様子がうかがわれる。
8.
課税評価に対する様々な要因の影響を個別に判断するために、これらの要因を説明変数とする重回帰分析を行った。この結果、(1)取得時における評価額を決定する主な要因は簿価であり、階数などの規模や所有面積、所有形態、住宅用途などの要因が評価を低めるように作用していること、(2)直近の評価額を決定している要因は簿価のみならず多岐に渡り、特に、階数などの規模や構造、99 年以降に建築された物件などは評価を高めている要因であることが検証できた。さらに、(3)簿価の減価率を決定し減価を進める要因は主に取得後の保有年数であること、(4)評価額の減価率を決定する要因をみると、階数などの建物の規模や構造、99 年以降に建築された物件、東京立地などが減価を抑制し、評価が下らぬように作用していることが分かった。
9.
取得時には簿価を基準として課税評価は比較的妥当な水準にあるものの、評価替えを経た直近評価は、建物規模や東京立地などの再建築価格方式による評価の仕組みや1999年以降建築要件にみられるような経済状況などによって高止まりしている。一方では簿価が取得年に応じて減価していることから、評価と簿価の乖離はますます拡大し、負担感が増大していることが分かる。簿価を決定する取得後の保有年数とは異なり、直近評価には明確ではない様々な要因が作用しており、物件による評価のバラツキが自ずと大きくなるため、納税者にとっては公平感の喪失といった状況が高まっている。取得時に評価に影響を与える簿価(=市場価格)が、評価替え時点では市場価格として扱われていない点は矛盾ではなかろうか。また、規模の大きさや堅牢な構造などの要件が、課税評価の減価を抑制し、評価替えを高める方向に影響していることから、建物の高度利用や耐震構造の導入などにマイナスのインセンティブを与える懸念があり、制度的に望ましいものではない。
10.
こうした分析をJ-REITs などの管理された物件サンプルの情報をもとにさらに精緻化するとともに、再建築価格方式に基づいた典型事例による評価替えのケーススタディを行うことが、課税評価の実態をさらに解明し、建物課税のあるべき論と共に、具体的な制度改正に向けた提言を実現する基礎となろう。

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