コラム
2002年03月18日

地価下落と減損会計が企業に与える影響

小本 恵照

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1.増加する固定資産としての土地

1990年代に入ってからの、長期の経済停滞、物価や資産価格の下落、不良資産の増大などといった環境変化の中で、企業経営は大きな変革を強いられてきた。この結果、企業の資産・負債構造や収益構造には大きな変化が生じている。ここでは、固定資本としての土地の動向に焦点を当ててその変化をみてみたい。

図表1は、法人企業統計年報によって 1975年から5年刻みに資産や負債などの変化をみたものである。1995年まで企業は着実に資産や負債を増加させてきたが、1995年からは一転して資産や負債のほとんどの項目で圧縮が進んでいることがわかる。いわゆるリストラの進捗である。こうした動きの中で注目されるのが、固定資産として保有されている土地の動きである。ほとんどの資産項目が圧縮されているにもかかわらず、土地と投資その他の資産のみが依然として増加を続けているのである。

土地の増加には、いくつかの理由が考えられる。一つは設備投資に伴う土地の取得である。景気低迷下にあっても企業は設備投資を続けたため、その過程で土地のストックが積み上がったと考えられる。別の理由としては、流動資産に分類される販売用不動産を固定資産に振り替える動きである。販売用不動産に時価評価が2001年3月期から適用されることになり、不動産を販売用不動産として分類しておくと含み損が顕在化することになった。これを避けるために固定資産への勘定科目の変更が行われたと考えられるのである。
資産、負債および資本の変化

2.懸念される減損会計導入による含み損の顕在化

図表2 地価の推移(1989年末=100) 固定資産の積み上がりによる影響として懸念されるのは、地価の下落に伴う含み損の拡大である。

1990年初頭にピークをつけた地価の下落は依然として続いている(図表2)。ピークから2001年3月末までの下落率をみると、全国平均地価で36.7%、全国の商業地で53.8%、6大都市の商業地に至っては68.5%の下落となっている。

しかも、先にみたとおり、企業は1990年代にも固定資産としての土地の保有を増加させており、地価の下落とともにそれらの土地には含み損が発生しているとみられる。

では、一体含み損はどの位の金額に上るのであろうか。簡単に試算してみよう。毎年の土地の増分はその当時の時価で取得されたものとし、取得された土地はそのまま現在まで保有されていると仮定する。含み損は、取得価格に、取得時点と現時点との地価の下落率を乗じることによって算出することができる。1985年から毎年の土地の増分と地価の下落率を用いて、含み損を計算してみると、全産業で約49兆円もの含み損が存在していることがわかる。これは、2000年度時点で企業が保有する全ての土地(簿価)の28.4%に達するものであり、非常に大きな金額である。

早ければ 2004年3月期にも導入が予定されている減損会計の下では、固定資産としての土地が時価評価され、これら含み損が顕在化され、損失が損益計算書に計上されることになる。上記の規模の含み損が顕在化することは企業業績に多大な影響を与えると予想される。
図表3 2001 年度に土地再評価法を実施または表明した企業 一部の企業では、こうした事態を踏まえ、今年度末に期限が切れる「土地再評価法」を利用して、含み損の処理を行っている。土地再評価法では、事業用の土地を時価で評価し直し、含み損と含み益の差額を株主資本に反映できるため、多額な含み益のある土地を保有する歴史のある企業が主に利用している。例えば三菱地所は明治時代から受け継ぐ簿価の低い土地を評価替えし顕在化させた1兆円近い含み益で、バブル期に取得した土地の含み損を埋めると伝えられている。同様に、三井不動産や近畿日本鉄道なども、それぞれ2120億円、1400億円といった再評価差額金を計上するなど、同様の処理を行っている。

しかし、こうした土地再評価法で含み損の処理ができるのは、業暦の長い一部の企業に限られる。残りの多くの企業は、減損会計の導入によって含み損が顕在化することになるとみられる。減損会計がいつ導入されるのか、また、導入による損失が現実にはどの程度になるのか目の離せない課題といえよう。
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