コラム
2001年09月17日

「選択と集中」が期待される日本企業

小本 恵照

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1.多角化を進める日本企業

企業は成長とともに多角化を進める。日本企業の活動内容をみると(図表1)、多角化をしていない専業企業は企業数ベースで約3 割、売上ベースで15%にとどまっており、大半の企業は本業と異なる事業を行っている。また、専業企業の構成比を企業数ベースと売上高ベースで比較すると売上高ベースの構成比のほうが小さく、企業規模が大きくなるほど多角化を進めていることがわかる。

企業が多角化を進めるのは、企業の内部要因と外部要因の2面がある。内部要因としては、企業が成長する中で、他の事業活動に利用できる未利用の経営資源が蓄積されてくることが挙げられる。高分子化学技術を基盤にしてプラスチックや炭素繊維に進出したの化学繊維会社は一つの例であるし、接客サービスや食品調達のノウハウを活かした大手スーパーの外食産業の進出も同様の事例といえるだろう。

企業外部の要因としては、属する産業の成長鈍化・成熟化や技術革新などが指摘できる。産業の成熟化すると有望な投資対象が減少する一方で、企業のキャッシュ・フローは潤沢となるため、新しい投資対象をみつけようという誘因が働くことになる。ユニクロが衣料品以外への進出を計画するのも、安価な衣料品販売の成長が鈍化してきたからに他ならない。また、技術革新については、エレクトロニクス技術の進歩による任天堂やソニーのテレビゲームへの進出を指摘することができるだろう。
図表1 企業の多角化状況

2.収益性を低下させる過度の多角化

多角化と企業の収益性との関係はどうなっているのであろうか。多角化の程度別に売上高経常利益率の状況をみたものが図表2である。これをみると、多角化の程度が小さい兼業1が最も収益率が高く(全産業で2.7%)、兼業2が2.5%で続いている。多角化が最も進んだ兼業3は1.0%と収益率は最低となっている。多角化が一定の限度に止まる場合には、コア事業と関連した多角化が多くシナジー効果が発揮されるのに対し、多角化があまりにも進むと、コア事業と関連の薄い多角化が増え、コア事業のノウハウを活かす余地が限られ、収益性の向上につながらないためと考えられる。収益性の向上のためには、多角化を一定限度に止める、事業の「選択と集中」が求められていることを示しているといえる。
図表2 企業の多角化と収益性

3.「選択と集中」の余地は依然として大きい

では、事業の「選択と集中」が求められる中で、各産業の多角化には変化がみられるのであろうか。多角化を、コア事業との関連の深い「関連多角化」と関連の薄い「非関連多角化」に分け、1995年から1999 年にかけての変化を分析してみた。

それによると、非関連多角化を抑え、関連多角化を進めている産業は、太線で囲まれた部分に位置するゴム製品、輸送用機械、一般機械など一部の業種に止まっており、コア事業への回帰は必ずしも十分でないようである。日本企業の収益性の向上が求められる中で、事業の「選択と集中」を進める余地は依然として多く残されていると考えられる。
図表3 関連多角化と非関連多角化の変化(1995→1999)
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