1997年07月25日

工務店の再構成と業態革新 -進展する戸建住宅業界の構造変化-

村社 通夫

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1.
日本における住宅問題は、価格(コスト)の高さが質の向上を実質的に阻んでいるという構造にある。したがって、質の向上には高価格(コスト)の是正が必要であり、これらを同時解決していくことが求められている。しかし、この問題の打開の道筋が示されないうちに、高齢化、国際化、地球環境問題への対応等、さらなる多様な課題が次々と住宅に課され始めており、その担い手たる住宅産業の役割と責任が一段と高まっている。
2.
戸建住宅業界は住宅市場の主要なマーケットを担う業界であるが、戦後の住宅市場の拡大と変化の過程で、大きな変容を遂げつつ、複雑で特異な業界構造を形成してきた。この戸建住宅業界の中にあって、工務店は地域に根ざした中小零細業者を中心とし、住宅業界の底辺を形成するセクターである。個々の供給規模は小さいものの、多数の事業者の存在から、全体としては戸建住宅供給戸数の約50%のシェアを保持しており、戸建住宅最大の供給セクターである。
3.
工務店は「元請け」業務においては、徐々にシェア低下を余儀なくされているが、地域密着的に「施工」という住宅供給の中核的な機能を担い続けている業態であり、その重要性は現時点においても何ら低下していない。大手プレハブメーカー等も、その施工の大半は下請けという形で工務店セクターに依存しており、競合と補完が交錯する複雑な関係が成り立っている。
4.
工務店は戸建住宅市場のメインサプライヤーであり、自らの住宅供給を通じて、戸建住宅業界のプライスリーダーとしての機能を果たしている。しかも、それにとどまらず、大手業者の下請け工事を通じて、ハウスメーカー等の住宅コストの決定にも深く係わっている。工務店の重要性は、工務店の問題が、単に住宅業界の一セクターの問題ではなくて、広く住宅業界全体に係わる問題であるところにある。しかし、近代化・合理化の遅れ、大工技能者の後継者難を背景に、営業力、商品力、資材調達力の不足等、深刻な経営難に直面しており、転業・廃業に追い込まれつつある。
5.
しかも、ここ数年、PL法の施行、住宅金融公庫の融資基準の改正、政府の住宅コスト削減施策の展開等、工務店経営に決定的な影響を及ぼすと考えられる法律の施行、政策変更等が相次いで実施に移されている。このような環境変化を背景に、戸建[住宅業界では、大手プレハブの工務店分野への参入、住宅資材メーカー、建材商社の住宅事業への展開、住宅FC(フランチャイズ・チェーン)の台頭等、多様な住宅関連の有力企業と工務店の合従連衡が進んでおり、業界再編成に向けた大きなうねりの様相を呈している。
6.
これらは、住宅関連の有力企業と工務店との役割・機能分担の再構築を通じて、工務店がもつ多様な機能のうち、商品開発力、営業力等の弱点を補完し、「地域密着型」、「施工力」等の強みを補強しようとするものである。これは多様な業態をもつ工務店が、事業ドメインの確立に向けて業態革新を目指す動きでもある。この過程で、工務店が一手に担ってきた包括的な住宅供給機能のアンバンドリングが進展し、専門家、専業化の方向性が次第に明確になっていくことが予想される。
7.
現在、展開されつつある戸建住宅業界の再編・再構築が、住宅の質の向上と高価格(コスト)の是正にどこまで有効であるかは、必ずしも明確ではない。しかし、住宅供給システム全体の革新なくしては、この問題に打開の道筋を見出すことができないことだけは確かである。とりわけ、システムの中心に位置する工務店の革新は必須の課題であると同時に、不可避でもある。工務店には「変化」に立ち向かっていく経営力が、今、強く求められる。

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