1997年03月01日

企業内福祉の再構築に向けて-役割の変化を踏まえた課題への実証的アプローチ-

武石 恵美子

松浦 民恵

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<要旨>

  1. 企業内福祉は、経済社会の変化に合わせながら随時修正が重ねられてきたが、今後の少子高齢社会を見据えた社会保障制度体系の再編の進行、あるいは雇用システムの変化や従業員意識の変化等を背景にして、構造的な変革が求められている。最近、企業内福祉をめぐり様々な提言がまとめられているのも、こうした社会変化に対応した福祉が模索されていることのあらわれであろう。
  2. 企業内福祉は、社会保障制度に先駈け、またあるときは社会保障制度を代替、補完する形で展開されてきた。コスト面からみると、1970年代以降、特に法定福利費の上昇が大きくなり、全体としての福利厚生費の伸びを押し上げてきている。我が国の企業内福祉の特徴を欧米諸国と比較すると、法定外部分が大きいアメリカと、法定部分が大きいヨーロッパの中間型になる。また、社宅等住宅関連の費用が大きいのも特徴である。
  3. 企業内福祉の再編の方向をニッセイ基礎研究所が実施した調査によりみると、まず、大企業を中心に再構築ニーズが高いことが確認される。特に、法定福利費の上昇や高齢化等の人口構造の変化、従業員ニーズの変化等を受け、企業内福祉を再編したいと考える企業は少なくない。一方の従業員も、属性により異なる福祉ニーズを持っていることが確認された。
  4. 企業内福祉再構築の最大の課題は、コスト抑制を与件としつつ、すでにある福祉施策に対する従業員の既得権意識と新しく起きている従業員のニーズとの調整をいかに図っていくかという点であろう。また、企業の人事管理制度の中ですでに始まっている、従業員の自立を求め自己責任の原則を徹底しようとする流れが、企業内福祉の再編の方向にもみられてきており、人事制度体系の中において企業内福祉をいかに位置づけるか、という点も重要になってこよう。従業員ニーズとの調整方法としては、従業員にも受益者としての負担を求めつつ労使協調型の福祉制度を導入することも一つの選択肢となろう。また、外部マーケットの福祉資源を企業が活用する方向も、一つの対応となりつつある。
  5. 企業内福祉再構築の方向は、基本的には各企業の労使の話し合いにより決定されればよいことである。しかし、社会保障制度の構造改革が進む中で、企業内福祉の役割を社会の中で再確認する必要が出てきているのではないだろうか。また、企業内福祉には企業にとって人材の確保を狙った施策も多く、こうした制度体系が円滑な労働移動を阻害し、産業構造の変化への対応を遅らせているのではないかとの問題提起もなされている。こうしたことが社会全体としての不利益をもたらしているとすれば、企業の枠を超えたところで検討すべき課題であろう。さらに、企業内福祉の再構築にあたっての問題点として税制の問題を取り上げる企業が、特に再構築ニーズの高い大企業で多く、いわゆるフリンジ・ベネフィット課税の問題も検討が必要になってこよう。
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