1996年08月01日

アジア金融・資本市場の現状-シンガポール・香港二大市場を中心として

管野 友人

清水 勘

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■見出し

はじめに
1.香港・シンガポール金融センターのこれまでの成り立ち
2.90年代の潮流
おわりに

■introduction

1.アジアの経済発展と金融市場

日本を除くアジア諸国の金融資産残高は94年現在で、3兆4911億米ドルと過去5年間で約2倍と格段の成長を遂げている。アジアの金融資本市場がここまでにいたる背景には、過去30年間、ほぼ順調に発展してきた同地域の経済成長が一般的に挙げられる。60年代までの輸入代替工業化、それ以降の直接投資に支えられた輸出指向工業化といった成長プロセスの過程で、域内経済は確実に成長を持続した。この期間、アジア諸国は、高成長持続上必要な国内投資を賄うに足る国内貯蓄を持ち得ておらず、不足額を海外に依存せざるをえない構造を抱えてきた(投資・貯蓄ギャップ問題)。このギャップを埋めてきたのが、直接投資を始めとする海外からの資金流入である。
90年代に入り、アジアの高成長への関心の高まりから海外投資家のアジア投資も活発化し、債券発行、株式発行による資本の調達等、直接投資以外の調達経路が多様化しつつある。こういった資金調達手段の多様化を背景に、域内金融資本市場は著しい発展を遂げた。

2.都市国家(シンガポール・香港)への金融資本機能の集積

アジア各国の対名目GDP比銀行資産残高をみた場合、香港とシンガポールの比率が突出している。都市国家として、限られた国家資源(国土面積は、香港が東京の半分程度、シンガポールが淡路島程度。人口では、各々、6百万人、4百万人)等の物理的な制約を持つ両国は、金融立国に国家存続の活路を見出してきた。前述の金融機関総資産の対名目GDP比では、香港が7.2倍、シンガポール1.6倍と他のアジア諸国と比べ高い水準となっており、両国の金融セクター依存の度合いが伺い知れる。
香港、シンガポールの2都市が、今日のような金融立国を行えた背景には、(1)他国に先駆けて70年代にはオフショア市場制度を導入し、自由度の高い金融市場を設立したこと、に他ならないが、更に、これら市場が軌道に乗った決定的な要素として、(2)資金需要が旺盛な周辺諸国に囲まれていたこと、並びに(3)それら諸国の金融市場が、未成熟であったり、厳しい監督規制下に置かれていた為、自由な金融資本取引が行えなかったこと、が挙げられよう。換言すれば、他国の金融自由化の遅れをにらみつつ、名実ともに自由闊達な市場環境をいちはやく整備し、域内の資金調達運用需要を一気に引き受けたことにある。

ここでは、アジアの金融センターとして称されるシンガポールと香港の金融資本市場に焦点を置き、(1)これまでの発展過程、並びに(2)90年代に台頭してきた新興金融センターとの関係を踏まえた上での両市場の今後の方向、の2点について考察を行いたい。

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