1995年04月01日

アジアにおける「コンバージョン」の経済分析

  竹中 平蔵
  クー・シン

文字サイズ

■見出し

1.はじめに
2.アジア地域の軍事支出:ファク卜・ファインディング
3.「コンバージョン」の経済効果:サーベイ
4.アジアにおけるコンバージョンのマクロ経済効果
5.結び

■introduction

東西冷戦構造の終焉を受けて、主要国において軍事支出の削減が可能となり、いわゆる平和の配当の存在が強く認識されるようになった。これまで「軍事」という非生産的な部門に投入されていた資源を、今や、より生産的な部門に投入するとこが可能になっている。即ち世界の経済は、生産のための投入を増加させることができるという意味で「プラスのサプライ・ショック」の機会を得ており、これをいかに活かして経済発展を促進できるかに大きな期待が集まっている。

もちろん、こうしたプラス効果だけが常に生じるという保証はない。軍事費の削減は長期的なプラス効果が期待される反面、短期・中期的には総需要の低下を通して失業の拡大を招くかも知れない。また、軍需から民需へと需要のシフトが生じたとして、供給側(企業の生産体制)がいかに速やかに適応できるのか、という問題もある。こうしたなかで、1980年代の終盤以降、「コンパージョン」(軍事から民事への転換)の経済分析が活発に行なわれるようになった。アメリカでは1988年にECAAR(軍縮を考えるエコノミストの会)が設立され、日本でも89年に同支部が発足している。

しかしながら、日本と関わりの深いアジアでは、世界的な軍事縮小の傾向とは逆行するような動きの見られることが、Klare(1993)によって主張され、以降しだいに注目を集めるようになってきた(注1)。そもそもこの地域では、近年の急速な経済発展ばかりが注目され、経済と政治の接点ともいうべきコンパージョンの問題は、政策的にもほとんど問題にされてこなかった。もちろん、コンバージョンに関する経済分析の蓄積も之しい。

この論文では、以上の諸点を踏まえ、軍拡・軍縮のマクロ経済効果に焦点をあて、アジアにおけるコンパージョン問題を検討する。しかしながら、この地域では、そもそもデータ上の制約等から、軍事支出に関する事実関係も必ずしも明らかにはなっていない。そこで以下では、先ず幾つかの国際比較データに基づいてアジア各国の軍事支出に関するファクト・ファインディングを行なう。次に、コンパージョンに関するこれまでの研究をサーベイする形で、軍事支出変化のマクロ経済効果を検討する。最後に、アジア発展途上国の代表格として韓国を例にとり、長期効果(アロー=リ・モデルによる)と中期効果(マクロ・モデルのシミュレーション)の二つの視点で、軍事支出変化のマクロ経済効果を分析する。結論として、アジア地域では経済成長に伴い軍事支出の相対的な(世界の他地域に比較して)拡大が見られること、また軍縮は長期的にみてマクロ経済に少なからぬプラス効果をもたらすことを明らかにする。

現在アジアでは、軍事支出拡大の結果として、当面の需要が拡大する一方で、長期的な供給力低下がもたらされている。これは、アジアというエマージング・マケットに「インフレ圧力」「バブル体質」をもたらす危倹がある。その意味でも、同地域の軍縮の促進には、大きな経済的意義があると考えられる。

このレポートの関連カテゴリ

竹中 平蔵

クー・シン

レポート

アクセスランキング

【アジアにおける「コンバージョン」の経済分析】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

アジアにおける「コンバージョン」の経済分析のレポート Topへ