1994年09月01日

芸術は都市をよみがえらせる-米国における芸術の経済効果とパブリック・アートを中心に-

吉本 光宏

片岡 真実

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■要旨
  • 21世紀の都市づくりにおいては、“芸術文化”が重要な要素になると予想される。
  • 芸術文化の構成要素を三つに分けて、都市との関連性を整理すると、最近の動向として次のようなものがあげられる。
    • 芸術文化施設(Hardware):文化施設の複合された大規模都市開発事業の増加
    • 芸術作品・文化事業(Software):都市空間の中に芸術作品を設置する「パブリック・アー卜」、一定の期間、特定の場所で演劇やダンス、コンサートなどを集中的に開催する「芸術フェスティバル」の活発化
    • 芸術団体・芸術家(Humanware):都市を代表する芸術団体の存在、「アーテイス卜・イン・レジデンス事業」への取り組み
  • 芸術文化が都市に対して与えるインパクトは、これら三つの構成要素が固有に持つ「芸術的な効果」と、様々な波及効果によって地域経済を活性化する「経済的な効果」に分けられる。
  • 「経済的な効果」について最近米国で発表された調査では、以下のようなことが報告されている。
    • 全米の非営利芸術機関の年間総支出額は約370億ドル(3兆7,000億円、1990~92年の平均)、それに伴い、130万人の雇用(全米の労働力の1%強)が創出され、250億ドルの個人所得がもたらされている
    • 1992年のニューヨーク・ニュージャージー大都市圏における芸術産業の経済波及効果は98億ドル(対82年比実質14%増)で、35億ドルの個人所得(同10%増)、約11万人の雇用(同8.5%減)が創出されている
  • また、先の三要素全般にわたって幅広い「芸術的な効果」を有するものとして、米国におけるパブリック・アー卜を取り上げてみると、以下のように傾向がみられる。
    • 全米芸術基金(NEA)による助成、各地方自治体における「パーセント・フォー・アーツ条例」の整備、あるいは民間非営利団体での活発な活動がパブリック・アートの発展に寄与してきた
    • 近年では、その範囲は「公共空間における芸術作品の設置に留まらず、開発事業全体への芸術家の参画、実施段階への市民参加、作品管理などのプロセスが重視され、都市づくり全般に及んでいる
  • ただし、米国と我が国では、芸術の社会的な位置づけ、芸術を取り巻く社会情勢や都市問題、そして、芸術の衰退に対する危機感や意識などが異なっていることを認識しておく必要がある。
  • 特に、芸術文化の効果だけを過信して、明確な理念もないまま、むやみに文化施設を建設したり、芸術作品を設置するといった安易な発想は避けなければならない。
  • 今後21世紀に向けて、芸術を活かした都市づくりを推進していくには、そのゴールや目標を明確にすること、経済的効果を最終的な目的としないこと、都市づくりや芸術文化の育成には長期的な視点を要すること、芸術の持つクリエイティビティと柔軟性を導入すること、そして、プロジェク卜を実現するプロセスを重視することなどを留意する必要があろう。
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