1993年04月01日

日本の森林と林業のあり方 -環境、地域経済、証券化の観点から-

中村 健

京都大学経営管理大学院 川北 英隆

坂本 眞一

俣野 文彦

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<要旨>

地球環境を考えていくと、森林の役割にどうしても注意がいく。森林は、それが熱帯にあろうが国内にあろうが、環境に積極的な役割を果たしていることに変わりない。ここに、国内の森林について考え、とくに森林に大きな影響を与えてきた林業のあり方を探ろうという発想が生まれる。

日本の林業は明治以降、森林を「木材の生産工場」として扱いがちであり、環境を意識してこなかった。このため、広葉樹などの自然林を切り開き、その跡に木材として役に立つ樹種(杉、桧などの針葉樹)を植林し、その後の短期間に伐採と新たな植林を繰り返すという方法が採用されてきた。

とはいえ、このような林業が衰退すれば森林が保全されて環境にとって好ましいかといえば、決してそうではない。林業の衰退した地方で、地域の活性化と称した乱開発を目撃するにつけ、その感が強まる。むしろ、林業と環境、地域経済と環境の共存・共生の方法を探ることが重要であり、長期的には地域経済の利益になろう。その一つの試みが鹿児島県の屋久島で実行されつつある。

一方、林業の現状は存亡の危機に直面している。労働力の確保の点でも、過疎と老齢化から深刻な事態にある。そこで、林業経営についてシミュレーション用のモデルを暫定的に作成し、林業の収益率を求め、次の結論を得た。

a.現在のように植林地を短期で伐採するよりも、ある程度の長期化を図った方が収益的に望ましいが、それでも事業として採算に乗せることは困難である。

b.ある程度の補助金を前提とすれば、林業労働に対して魅力ある人件費を支払いながら、最低限の収益を確保できる可能性が大きい。

c.分収育林制度を推し進めて林業を証券化し、環境貢献型証券を発行して森林と自然保護のために投資資金を集めようとすれば、必要となる補助金の額はもう少し大きくなるが、対処できる範囲内である。

d.税務システム(相続税や、植林に要するコス卜を必要経費として認識する時点など)が林業経営に大きな影響を与える。

環境を重視し、林業を活性化するためには、国有林の会計・予算制度、林業や環境に関する税制、補助金制度、証券化の導入などさまざまな視点から社会システムを改善することが求められる。環境税のような新しい税制を導入しさえすればこと足りるというものでは決してない。さらには、林業を維持するためのボランティア組織やGKO(Green Keeping Operations)など人的な制度も視野に入れる必要があろう。同じことは、林業だけでなく、山岳地域での自然林や、青森県と秋田県にまたがる白神山地のブナ林のような広葉樹林の維持と育成についてもいえる。

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