1992年02月01日

投資促進策の国際波及メカニズム

竹中 平蔵

クー・シン

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■見出し

1.はじめに
2.投資政策分析の課題
3.モデル:Abel型関数の一般均衡分析
4.シミュレーション分析
5.結び

■はじめに

経済の発展を可能にする原動力の一つとして、企業の行なう設備投資の重要性が、古くから指摘されてきた。とりわけ1970年代に、企業投資の低迷と産業競争力の低下を同時に経験したアメリカでは、こうした認識が広がり、いわゆる「投資不足」「資本不足」を指摘する論調が勢いを得るようになった。1981年のいわゆるレーガン税制は、このような議論をドラスティックな形で現実の投資政策に反映させたものであり、具体的に、1962年に採用された投資税額控除制度の大幅な拡充と、思い切った加速度償却の採用を主内容としたものだった。

しかし、税制を用いた投資促進策は、1986年の税制改革で、一転して大幅な縮小・廃止をみることとなった。その要因の第一は、伝統的な「成長会計」(growth accounting) に基づくかぎり、設備投資の拡大が一国経済のパフォーマンスに対し必ずしも大きなインパクトを持つものではないことが認識され出したことである。また第二の要因として、そもそも税制を特定の政策目的に割り振ることのマイナス点が広く指摘されたことがあげられよう。税制を中立的に保つことこそが資源の最適な配分をもたらし、結果的に経済成長を最大化すると考えられるようになったのである。

これに対し、1980年代に生じた経済学の新しい潮流のなかで、企業の設備投資と経済成長・生産性・技術進歩の深い係わりが再び注目を集めつつある。1980年代を通して日本および西太平洋地域の発展途上国がみせた経済発展は、設備投資に関し、従来の成長会計の発想を超えた外部的な力(externality)の存在を認めることの必要性を示唆するものだった。こうした動きは、税制を中心とする設備投資政策のあり方についても、新しい問題を提起していると言えよう。

しかしながら、設備投資政策(投資減税や法人税減税)の効果を経済学的に評価するにあたっては、いくつかの困難な問題が残されている。その第一は、これまでの経済学上の論争において政策効果の大小をめくって依然として見解が大きく分かれていることである。

また第二に、分析を行なう際の新しい視点として、国際間の相互依存の高まりをどのように考慮するか、という問題も重要となりつつある。一国の投資の変化は、その国の対外収支・為替レートに影響を及ぼすとともに他の国々にも波及し、それがさらに当該国にもはね返ってくるという複雑なメカニズムを考慮する必要が高まっているからである。

本論では、理論的整合性の高い限界qモデルを一般均衡分析のフレームワークにとり入れ、さらにこのモデルをオープン・エコノミーの体系に拡張することによって、投資政策の効果について新しい分析を試みる。以下では、まず、投資政策分析の主目的・意義・位置づけを明らかにしたうえで、分析に用いるモデルの概要を説明する。その後に、日本およびアメリカの投資減税および法人税減税が内外にどのような効果をもたらすか、シミュレーション分析の結果を明らかにする。分析を通し、
・限界qモデルを小型世界モデルの中に組み入れることによって、'80年代の日本および世界経済の動向を比較的うまく説明しうること、
・以上のようなフレーム・ワークに沿えば、税制変更が設備投資に及ぼす効果はかなり大きいと考えられること、
・アメリカの場合、税制による設備投資刺激は同国内の経済成長にそれなりの影響を及ぼすが、競争力強化を通じて対外収支の改善をもたらす効果は必ずしも大きいものではないこと、
・日本では、アメリカの場合と異なり、同じ財源を用いても投資減税と法人税減税の間には効果の大きな差違がみられること、
等を明らかにする。

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