1991年10月01日

『平和の配当』の経済効果:供給サイドを含む小型世界モデルによるシミュレーション分析

竹中 平蔵

クー・シン

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■見出し

1.はじめに
2.「平和の配当」の捉え方
3.供給サイドを含む小型世界モデル
4.シミュレーション結果
5.結び

■はじめに

東西冷戦構造の終焉を機に「平和の配当」(Peace Dividend)が議論され出して、既に2年以上が経過した。西側諸国、とりわけGNP比5.4%('90年度)に達する軍事費負担をかかえるアメリカが、対ソ緊張緩和によってその負担を削減することができれば、同国のみならず世界経済全体に大きなプラス効果をもたらすことが広く認識されたのである。平和の配当はまた、「冷戦費の節約」(Cold War Saving)の名でも論じられ、アメリカ経済および世界経済活性化のための一つの明るい材料として受けとめられてきた。

しかしながら、この間、平和の配当がいったいどのような経済的インパクトをもたらすのか、具体的な議論はほとんど進展をみなかった。その理由の第一として、1990年8月以降の湾岸戦争をきっかけに世界平和のためのアメリカの軍事力が見直され、軍事費削減の見通しが不透明化したことがあげられよう。ソ連におけるクーデター失敗とその後の政治変革に見られるように、ソ連の情勢が極めて流動的で今後の世界システムの姿が依然として見えてこないことも、重要な点である。また、例え軍事費削減が実現されたとしても、それが果たして民間の生産約な部門の資源として活用されるのか、不確実な要素が残されたままである。第二に、世界的な投資資金需要増(ソ連・東欧など)とそれによる世界的貯蓄不足への懸念が広がり、平和の配当に対する明るい期待を打ち消すようなムードが広がったことも、大きな要因であったと考えられる。さらにまた、より具体的な問題として、平和の配当の効果を分析するための経済学的分析手法に関して、充分な合意がなかった点も重要であろう。

平和の配当がもたらす経済効果を分析するにあたっては、財政支出額の変化が経済の需要サイドにどのような変化をもたらすかといった点に加え、供給サイドの変化を通じた分析にも充分な配慮が必要である。興味深いことに、1980年代後半からアメリカでは、技術、情報、社会インフラといった様々な要因が民間の生産活動に外部経済効果をもつことが重視され出し、経済学の分野でも“externality”に関する分析が進展している。本稿では、こうした新しい研究成果をとり入れ、供給サイドを明示的に含む小型世界モデルを作成しシミュレーション分析に用いることによって、平和の配当の経済効果を計量的に把握するよう試みる。

以下では、まず「平和の配当」の可能性、規模等について概観する。次に、社会資本ストックを含む生産関数を織り込んだ、サックス型小型世界モデルを定式化する。最後に、平和の配当が生じた場合の経済効果について、シミュレーション分析を行なう。分析を通して、経済の供給サイドを考慮した場合、平和の配当の効果はアメリカの経済成長に対してそれなりに大きなものとなる可能性が高いことを指摘したい。

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