2021年07月12日

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4――コロナ後の働き方とワークプレイスの在り方~変えてはいけない原理原則

1|原理原則(1):メインオフィスの重要性
(1)フィジカル空間vsサイバー空間
「フィジカル空間での人間同士のつながり・信頼感の形成は、サイバー空間では代替できない」との山極京大前総長の考え方は、人間の主要な営みであるビジネス活動にも当然のことながら当てはまる。すなわち、イノベーション創出には、感情が見えにくく参加意識も希薄となりがちなサイバー空間でのやり取りだけでは限界があり、リアルな場での濃密な対面コミュニケーションが欠かせないため、主として大都市圏に立地するメインオフィスの重要性は、今後も変わらない13

例えば、オンライン会議は、出張などの移動時間を節約できる利便性や交通機関の利用によるCO2排出量を削減できる環境性などから、今後もコミュニケーション手段の選択肢の1つとして当然積極活用されるべきだが、それのみでは画期的なアイデアやイノベーションの創出を完結することはできないだろう。オンライン会議では、基本雑談はなく定刻通りに終了することが多いため時間的効率性は非常に高い反面、それゆえに議論が白熱せず創造性を創発する「ワクワク感」が湧かない、と感じることもあるのではないだろうか。一方、メインオフィスなどリアルな場では、不必要に長い会議やミーティングは避けるべきだが、多少議論が白熱しても、フェースツーフェースで相手の反応や雰囲気を感じながら、本音の意見をぶつけ合う意義はやはり大きい。

オフィスというリアルな場に集い信頼関係を醸成し協働(コラボレーション)することの重要性は、「人間社会の本来の在り方」や「人間の本性」に根差しているため、在宅勤務などのテレワークでは決して代替できない普遍的な原理原則と捉えるべきだ。この点をしっかりと理解しオフィス戦略にこれまで取り入れてきたのが、GAFAやマイクロソフトなど米国の巨大ハイテク企業だ。
 
13 筆者は、「画期的なイノベーション創出は、バーチャルなコミュニケーションではなく、フェースツーフェースの濃密なコミュニケーションが起点となる」との考え方を拙稿「イノベーション促進のためのオフィス戦略」『ニッセイ基礎研REPORT』2011年8月号にて提示した。
(2)米国の先進的な巨大ハイテク企業のオフィス戦略
CRE戦略の先進企業でもあるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)やマイクロソフトといった米国の巨大ハイテク企業は、自社所有の大規模な本社ビル14をクリエイティブオフィスとして構え、イノベーション創出の起点や経営理念・企業文化の象徴と位置付けてきた15。米国でハイテク企業が多く集積するシリコンバレーやシアトルなどでは、「War for Talent(人材獲得戦争)」とまで言われるほど、企業間で人材の争奪戦が激しく繰り広げられており、企業は優秀な人材の確保・定着のために、必然的に働きやすいオフィス環境を整備・提供せざるを得ないという側面も大きい。

例えば、アップルは、2017年にカリフォルニア州クパチーノの広大な敷地(約71万㎡)に新本社屋Apple Parkを構築した16。総工費は50億ドルと言われており、自社ビルへの投資としては極めて巨額だ。この新本社屋の構築は、創業者の亡きスティーブ・ジョブズ氏が指揮・主導したプロジェクトだった。最先端の建築技術や環境技術などを惜しげもなく駆使し、従業員の創造性やコラボレーション、健康の促進に重点を置いたApple Parkは、創造的なオフィスデザインをいち早く取り入れてきたジョブズ氏にとって、クリエイティブオフィスの集大成だったのではないだろうか。

CRE戦略の下で、オフィスワークだけでなく、ICTを駆使してオフィスやデスクなど場所にとらわれずに仕事を行う「モバイルワーク」やテレワークなどを含む多様なワークスタイルや、従業員の安全と事業継続のためのBCPをしっかりと組み込んだ創造的なオフィス戦略を確立・実践してきた、米国の先進的なハイテク企業では、新型コロナのパンデミック対応として、予め定められたBCPを速やかに発動し、それに沿って躊躇なく在宅勤務体制に移行した一方、パンデミックが終息し従業員の安全確保が確認されれば、直ちにBCPを解除しメインオフィスでの業務を全面的に再開するのが基本形である、と筆者は考える。すなわち、CRE戦略の下でのオフィス戦略を既にきっちりと組織的に実践できている先進企業であれば、コロナ後には平時の体制に戻すのであって、コロナ禍での気付きによりBCPを修正・改善することはあったとしても、基本的には、最先端のワークスタイルやワークプレイスを活用したこれまでの戦略に大きな変更は生じないはずだからだ。
 
14 米国の大企業の本社は、広大な敷地に構築されることが多いため、本社施設全体を「キャンパス」と呼ぶことが多い。
15 「イノベーションを起こすにはフェイストゥフェイスのコミュニケーションが欠かせず、バーチャル空間でのやり取りだけでは限界がある。GAFAといった巨大ハイテク企業でも大規模な本社ビルを構え、イノベーションの拠点と位置付けている」との筆者のコメントが、一井純「居抜きに間借り、コロナで変わるオフィス賃貸─オフィスのあり方を再考する契機に」東洋経済新報社『東洋経済ONLINE』2020年5月12日に掲載された。
16 Apple Park に関わる詳細な考察については、拙稿「健康に配慮するオフィス戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レター』2020年3月31日、同「クリエイティブオフィスのすすめ」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研所報』Vol.62(2018年6月)を参照されたい。
(3)アマゾン・ドット・コム:米国内で高度人材の雇用増とオフィス増床の計画をいち早く発表
【発表された人員増強・オフィス増床計画の概要】
筆者がコロナ禍の中でいち早く打ち出した「メインオフィスの重要性は今後も変わらない」との主張17を裏付けるように、アマゾン・ドット・コムは2020年8月18日、テキサス州ダラス、ミシガン州デトロイト、コロラド州デンバー、ニューヨーク州マンハッタン、アリゾナ州フェニックス、カリフォルニア州サンディエゴの東海岸から西海岸に至る全米6都市で、合計3,500人のテクノロジー人材・コーポレート人材を新規雇用し、そのために14億ドル超を投じて技術開発拠点とコーポレートオフィスを拡張する、と発表した18。CRE戦略の先進企業として、コロナ後の全面的なオフィス再開を見据えた、全くブレない骨太のオフィス戦略をいち早く示した、と高く評価したい。

今回の計画によるオフィス増床面積は合計90.5万フィート(約8.4万m2)となり、同社が北米で利用しているオフィススペース(約214万m2、2019年末)の3.9%に相当する(図表2)。新規雇用(3,500人)は、クラウドインフラストラクチャーアーキテクト、ソフトウェアエンジニア、データサイエンティスト、プロダクトマネージャー、UX(User Experience:ユーザー体験)のデザイナーなど、同社の広範な事業に関わる高度人材の採用が予定され、全米の従業員規模(約10万人19)の3.5%程度に相当するとみられる(図表2)。今回の増床面積を新規雇用数で除することで1人当たりオフィススペースを簡易的に算出してみると、マンハッタンでの計画が約29m2とやや広めだが、それ以外では15~23m2と、従来の米国の標準的なオフィスやアマゾンの北米立地のオフィスの平均値(約21㎡)と変わらない(図表2)。
図表2 アマゾン・ドット・コム:米国でのオフィス増床・雇用増計画(2020年8月18日発表)
 
17 拙稿「<新時代の住宅・不動産Vol.3:オフィス戦略>今、企業に求められるサテライトオフィス活用~新型コロナウイルスがもたらすワークプレイス変革」日本経済新聞朝刊2020年6月30日にて提示した。
18 本事案については、Amazon Press release: August18,2020“Amazon Announces Plans to Create 3,500 New Jobs in U.S. Tech Hubs in Dallas, Detroit, Denver, New York, Phoenix, and San Diego”を基に記述した。
19 Amazon Press release:July22,2019“Amazon Announces Plans to Expand in Ohio; Two New Amazon Robotics Fulfillment Centers Will Create More Than 2,500 Full-Time Jobs”に「100,000 U.S. employees」という記載があるため、この数値を用いた。因みに、アマゾンの全世界の従業員数(2019年末)は79.8万人に上る。
【マンハッタンでオフィス拡張を続ける背景】
この6都市の計画のうち、ニューヨーク・マンハッタンでは、新規雇用が2,000人と全体計画の57%、新設オフィス面積が63万フィート(約5.8万㎡)と全体の70%を占める、突出した最大のプロジェクトとなっている(図表2)。アマゾンは、2020年8月に経営破綻した老舗百貨店ロード・アンド・テイラーの旗艦店だったニューヨーク5番街のビルをウィーカンパニー(シェアオフィス大手ウィーワークの運営会社)から取得済みで、これをオフィスに転用する。

「アマゾンは17年9月に西部ワシントン州シアトルに続く第2本社の建設計画を発表。238の地域による誘致合戦の末、18年11月にニューヨーク市(※クイーンズ地区ロングアイランドシティ)と首都ワシントンに近いバージニア州北部(※アーリントン)に2つの新本社を設置すると発表した」20。しかし、「アマゾンは、ニューヨーク市クイーンズ地区で計画した第2本社の建設を地元の反対などで19年2月に断念した。その後も19年末にマンハッタンで最後の大型再開発とされるハドソンヤード地区のビルで賃貸契約を結ぶなど、ニューヨークでの事業拡大を続けている」21経緯がある。ニューヨーク市での第2本社建設計画を撤回した後も同市でのオフィス拡張に動いているのは、「東海岸の大都市に集まる優秀なハイテク人材の確保が必要と判断した」22からだという。

「マンハッタンのウエストサイドはシリコンバレー企業のハブとなり、アップルやアマゾン、グーグルらが拠点を構え、“シリコン・アレー”と呼ばれている」23という。中でもフェイスブックは、後述する通り、今後5~10年で社員の半数が在宅勤務になるとの見通しを2020年5月に示したため、今後在宅勤務中心の体制に急速に舵を切るとみられていたが、マンハッタンの歴史的建造物として知られる1912年竣工のジェームズ・ファーレー郵便局(ニューヨーク中央郵便局)のビルの一角をオフィスとして使用する大型賃貸契約(約6.8万㎡)を不動産会社ボルネードと締結したことを同年8月3日にアナウンスし、専門家やメディアを驚かせた。「フェイスブックはここ1年で、20万平方メートル(※ジェームズ・ファーレービルの事案を含む)に及ぶオフィス物件の賃貸契約をニューヨークで締結しており、その全てはペンシルベニア駅とハドソン川の間に位置している」24という。シリコンバレーのメンローパークの広大な敷地に本社を構えるフェイスブックも、在宅勤務一辺倒ではなく、リアルな場であるオフィスは引続き非常に重要であると捉えているのだろう。
 
20 日本経済新聞電子版2019年2月15日「アマゾン、NY「第2本社」白紙に 地元の反対受け」より引用。(※ )は筆者による注記。
21 日本経済新聞夕刊2020年8月19日「アマゾン、オフィス拡張」より引用。
22 時事ドットコム2019年12月7日「アマゾン、NYに新オフィス 第2本社撤回から1年弱で発表―米紙」より引用。
23 Forbes JAPAN2020年8月4日「フェイスブックがNYで大規模オフィス契約、不動産業界に朗報」より引用。
24 出典は注23と同様。(※ )は筆者による注記。
【オフィススペースのポートフォリオの考察】
アマゾンが北米で利用するオフィススペースは、この10年間で事業規模の急成長とともに、急速に拡張されてきた。売上高(北米部門とクラウドサービス事業AWSの合算売上高25)が2012年から2020年までの8年間に年率30%で成長する一方、北米でのオフィススペースは、同期間に約47万m2から約273万m2まで年率25%で拡張されてきた(図表3)。このうち賃借スペースは、約30万m2から約220万m2まで年率28%で拡張され、北米でのこれまでのオフィス増床を大きく牽引してきた。この結果、オフィススペースに占める賃借比率は同期間に64%から81%まで上昇した。

総利用面積が50万m2レベルに近付いた2012年からスペースの所有も開始し、20年末の所有スペースは約53万m2と全体の19%を占めている(図表3)。自社所有のシアトル本社は、3本の高層オフィスタワー(37階)とスフィア(Amazon Spheres:熱帯雨林を模して植物がうっそうと茂る、3つのガラスドームをくっつけた低層のオフィス)で主として構成されるが、最初のタワーは2015年にオープンしたため、所有スペースは2015年以降、増加ペースが高まっている。

直近の2020年末の北米でのオフィススペースは、賃借スペースを中心に前年末対比28%も拡張されており(賃借スペースは同31%増、所有スペースは同15%増)、コロナ禍の中でも極めて大幅なオフィス増床が躊躇なく実施された(図表3)。
図表3 アマゾン・ドット・コム:北米立地のオフィススペースと北米事業売上高の推移
因みに、アマゾンが全世界で利用しているオフィススペース(約467万m2)のポートフォリオは、2020年末で北米の賃借スペースが約220万m2(構成比47.2%)と最も多く、海外(北米以外)の賃借スペースが約177万m2(同37.8%)、北米の所有スペースが約53万m2(同11.3%)、海外の所有スペースが約17万m2(同3.6%)と続いている26
 
25 アマゾンの財務報告において現在開示されているセグメント情報は、「North America(北米)」、「International(海外:北米以外の地域)」、「AWS(クラウドコンピューティングサービス)」の3部門に分かれる。北米部門と海外部門には、ネット通販事業、Amazonプライム等サブスクリプション事業、実店舗小売事業など、AWSを除くすべての事業が含まれる。AWSは日本を含めグローバル展開が図られているが、北米での事業規模が比較的大きいとみられ、ここでは、北米部門とAWS部門を合算したものを北米事業であると大雑把に捉えることとした。
26 アマゾンの配送センター・データセンターなどを含む全世界の施設全体のポートフォリオ(約4,408万㎡、2020年末)に関わる考察については、拙稿「アフターコロナを見据えた働き方とオフィス戦略の在り方(前編)」基礎研レポート2021年3月30日を参照されたい。
【創造的なオフィス空間の重要性を熟知】
このように、アマゾンはこれまで事業拡大に合わせて、北米でのオフィス増床をハイペースで実施してきたのだが、コロナ禍の中でもさらなるオフィス拡張に動くのは、単純に成長企業であるとの理由だけではない、と筆者は考える。

「米IT企業ではツイッターが(※2020年)5月12日、約5,100人の全社員を対象として一定の条件を満たせば期限を設けずに在宅勤務を認める方針を示した」のに続き、「フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は(※2020年5月)21日、今後5~10年で社員の半数が自宅で勤務するようになるとの見通しを示した。新型コロナウイルスへの対応として始めた在宅勤務の成果をふまえ、自宅で働くことを前提とした技術者の採用を始めるなど社内体制を整備する」27という。

世界最大のクラウドベンダーでもあるアマゾンなら、両社のように、在宅勤務を前提とした人材採用により大幅なオフィス増床を回避したり、コーポレート・技術開発系の全社員を対象にした完全リモートワーク体制に移行したりすることは、技術的には容易に可能であろう。アマゾンは、コロナ禍の中でもあえてそれをやらずに、従業員増員に合わせてオフィス増床をきっちりと行うことを決めたのは、何よりも快適なオフィス空間が従業員の活力や創造性に大きく影響を与えることを熟知しているからだろう。経営陣の目利きで選りすぐった優秀な人材を採用しているとの確信の下に、快適なオフィス環境と多様かつ柔軟で裁量的な働き方をセットで備えた創造的で自由な環境さえ提供すれば、厚い信頼を置く従業員の創造性は最大限に引き出され、イノベーションが生み出されるとの考え方が、経営陣に浸透していると思われる28。このような考え方は、アマゾンに限らず、米国の先進的な巨大ハイテク企業に共通するものだ。
 
27 日本経済新聞電子版2020年5月22日「Facebook 社員の半数、「コロナ後」も在宅勤務」より引用((※ )は筆者による注記)。ツイッターでは「オフィス再開後に出勤を希望するスタッフには、出社を認める」(BBCニュース2020年5月13日「ツイッター、在宅勤務を「永遠に」許可へ 新型ウイルス対策で効果実感」より引用)といい、両社ともに在宅勤務の重要性を今回再確認しつつも、極端な「オフィス不要論」には走らない柔軟な対応を取る、と筆者はみている(フェイスブックについては、本文に記述した通り、ニューヨークでオフィスの大幅な拡張を進めている)。
28 筆者は、このような考え方を拙稿「イノベーション促進のためのオフィス戦略」『ニッセイ基礎研REPORT』2011年8月号にて提示した。
【BCP強化と集積の不経済緩和に向けたオフィス分散化】
第2本社プロジェクトが進められているアーリントンに加え、2020年8月に発表されたオフィス拡張計画が実施される6都市は、いずれも本社のあるシアトルに近接しない、全米の広範な範囲に分布するため、徹底したオフィス分散化によるBCP強化の狙いも大きいとみられる。

また、シリコンバレーやシアトルといった米国のハイテク企業の一大集積地では、人材獲得競争の激化に加え、ハイテク企業に勤務する高所得者の増加に伴う住宅価格・家賃の急騰、住宅不足や交通渋滞など集積の不経済(デメリット)が一部で現れ始めている。アマゾンでは、この集積の不経済を食い止めるとともに、相対的に割安なコストでの雇用増が見込める都市へ進出するためにも、シアトルからのオフィス分散化が喫緊の課題と捉えられているのではないだろうか。また、アマゾンは今年1月に「米国内の本社や拠点の周辺地域に20億ドル(約2,060億円)を投じ、中低所得者向けの低価格帯の住宅を建設すると発表した。高賃金のアマゾン社員の増加に伴う地域の家賃高騰や住宅不足に対応する。本社のあるワシントン州シアトル近郊のピュージェット湾岸地域、第2本社となるバージニア州アーリントン、オペレーションセンターを建設するテネシー州ナッシュビルでの建設を想定している。5年間で少なくとも2万戸の住居を提供する計画だ」29といい、企業市民として集積の不経済を直接取り除く取組にも着手した。

企業は、地域・都市に構築した拠点を起点に事業活動を通じて、地域活性化や社会課題解決など「外部経済効果」を最大限に引き出すことに取り組むとともに、立地したことで「外部不経済」が発生するのであれば、それを最小化・ゼロ化しなければならない30。特にGAFAなど巨大デジタルプラットフォーマーが及ぼす社会的インパクトは非常に大きくなっているため、このような視点がより強く求められている、と思われる。

シリコンバレーやシアトルでは、一極集中による集積の不経済が一部で現れ始める一方で、ニューヨークには、GAFAやスタートアップなどハイテク企業が近年相次いで進出し、アマゾン、グーグル、フェイスブックはコロナ禍の中でもオフィス拡張に積極的に動いていることから、世界有数のメガシティであるニューヨークでは、集積の経済(メリット)が依然として働いているとみられる。

コロナ禍の中でも、アマゾンが全米にわたる広範かつ大規模なオフィス分散化への投資を戦略的かつ果敢に続行し、フェイスブックは在宅勤務をフル活用しつつも、次のハイテク集積地と期待されるニューヨークには、大規模なオフィススペースの確保に大胆に乗り出すことで、メインオフィスをワークプレイスの中核にしっかりと据えることを堅持しつつ、メリハリの利いた柔軟かつ機動的な経営判断を行っているのを見ると、米国の巨大ハイテク企業の凄みを改めて感じる。
 
29 日本経済新聞電子版2021年1月7日「米Amazonが低価格住宅 本社周辺など家賃高騰批判で」より引用。
30 筆者は、このような考え方を拙稿「CSRとCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2015年3月31日にて提示した。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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【アフターコロナを見据えた働き方とオフィス戦略の在り方-メインオフィスと働く環境の選択の自由の重要性を「原理原則」に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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