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企業に「オフィスの生産性を上げるには」と問えば、ビルオーナーに賃料を減額させる、賃料の安い他のオフィスビルに移転し、移転コストは新しいビルオーナーにフリーレント1期間を数ヶ月分サービスさせて吸収する、賃借面積を縮小する、などコスト削減のアイデアがまず出てくるだろう。賃借面積を変えない場合は、社員をできるだけ詰め込む、あるいは机と椅子を在籍者数分用意しないで床利用効率を上げる2、という身もふたもないアイデアも出てきそうだが、執務環境の悪化は、社員のモチベーションを下げて生産性を阻害するリスクもはらむ。眼に見えるコスト削減も重要だが、オフィスワーカーの仕事がはかどるといった前向きのアイデアも欲しいところだ。
たとえば、節電モードが常態化した首都圏なら、省エネと快適なオフィス環境が両立できれば、間違いなくオフィスの生産性向上に寄与するだろう。具体的には、専用部における照度の抑制など節電メニューを積極的に採用すると同時に、室内の温熱環境をできる限り快適なレベルにコントロールすることだ。夏の節電強化期間にオフィスの室温を28℃設定とするのが一般的だが、室温上昇がオフィスワークにおける集中力や作業効率を阻害していることは、実体験からも実証実験からも明らかだ3。一方、照明に関しては、机上照度を750LX以上とするこれまでの設定自体が明るすぎ、パソコン作業では300~400LX程度4で十分なこと、タスクライト(作業の手元照明)を利用すれば天井からの照度をかなり落としても支障がないこと、何よりも光環境の悪化は温熱環境の悪化に比べて生産性への影響がはるかに小さい5ことが指摘できる。そこで、照度を引き下げて大幅に節電する代わりに、空調では快適な環境を提供してはどうだろうか。日本ビルヂング協会連合会も昨年、「他の節電メニューで数値目標の達成が見込める場合は、オフィスワーカーの知的生産性の確保に配慮し、『オフィスの不快感は27℃を超えると急激に増す』とされていることを踏まえつつ、室内温度の調整を図ること」を傘下協会に要請している。
実は、ニッセイ基礎研究所では、昨年のフロア移転に伴って採用したLEDのタスク・アンビエント照明やパソコンなどIT機器類の節電で6、専用部の電気使用量を2010年比で約60%、2011年比で約30%と大幅に削減したが、同様の観点から室温のコントロールにも取組んだ。具体的には、オフィス内20箇所に設置した温湿度計での実測値を基に、室温設定を27℃に引き下げたうえで、社員の申し出があればエリア単位で1℃の引き下げ・引き上げを認める運用を行った。このとき、不快指数7に注目して湿度の上昇にも配慮し、湿度が高くて不快な場合は室温を引き下げた。このようなきめ細かな運用を行った結果、2011年の夏と比べて不快感を大幅に軽減できた。夏季の冷房設定温度が24℃と低かった頃は、室内の湿度が上がって不快な環境になることはなく、ビルの空調設備に湿度制御機能がなくとも特に問題ではなかった。しかし、省エネが社会トレンドとなった今も湿度を制御できるオフィスビルは希少なだけに8、快適な空調管理ができればビルの差別化要因にもなりそうだ。
最近の住宅では、除湿・加湿機能を持つエアコン、加湿機能や脱臭、除菌機能のある空気清浄機、調光・調色機能を備えたLEDのシーリングライト(天井照明)は決して珍しくなく、オフィスより住宅の方が省エネかつ快適な環境になっている。しかし、これからの日本経済の成長を担う“知的生産の場”がこのようなことでいいのだろうか。省エネと快適性の両立を追及した設備が新しいビルの標準装備となりつつある以上、既存ビルのオーナーも賃料の安さだけで勝負するのでなく、オフィスの生産性向上のアイデアを積極的に取り入れるべきだろう。たとえば、仕事がはかどるオフィスレイアウトの提案やコミュニケーションが深まる共用部のデザイン、お肌に優しいUVカットガラスの採用、コワーキング9に最適なカフェの誘致など、きめ細かい空調制御の工夫以外にもいくらでもありそうだ。いずれにしても、生産性の向上に役立つオフィスをアピールできれば、テナントとの契約交渉が有利になることは間違いないだろう。
(2013年02月13日「研究員の眼」)
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