コラム
2012年12月10日

日本の不動産市場はそれほど不透明なのか

松村 徹

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米国のジョーンズ ラング ラサールが発表した世界の不動産市場の透明度ランキングによると、日本は97カ国中25位で、アジア圏では11位の香港、13位のシンガポール、23位のマレーシアより評価が低く、台湾やフィリピン、インドネシア、中国、タイ、韓国、インドより高い。諸外国の不動産事情に通じていないため総合順位だけではコメントしようがないが、5つのサブインデックス毎にみた日本の順位が興味深い。各種インデックスによるパフォーマンス測定が10位であるのに対し、売買価格や成約賃料、空室率、投資利回りなど市場のファンダメンタルズに関わるデータが51位、取引プロセスが共益費の不透明性や将来キャッシュフローの確定が難しい日本独自の借家制度などの影響で44位と非常に低い評価となっている。

先般、一般社団法人不動産証券化協会が従来のJ-REIT(不動産投信)データに私募・非上場ファンドのデータを加えた新たな不動産投資インデックスの提供を開始したことで、運用成果を測定するインデックスがさらに改善された。一方、低評価の市場ファンダメンタルズデータだが、少なくともオフィスセクターについては、市場データが十分に整備されているといえるのではないだろうか。全国主要都市の空室率と募集賃料は毎月複数の民間機関が公表しており、成約賃料のインデックスも、四半期ベースだが2年前から公表されており、他に追随の動きもあるためだ。しかし、オフィス以外のセクターの市場インデックスも、商業施設の空室率など一部を除けば着実に整備されてきているだけに、今回の評価はやや意外な感もある。

むしろ、10数年前までは、国内投資家からみても“暗黒大陸”同然だった日本の不動産市場が、J-REIT市場創設以来、収益還元法による不動産評価の定着や各種インデックスの整備、その他不動産関連情報流通量の大幅な増加などで、透明性と流動性が著しく高まったという実感が強い。不動産関連のウェブサイトやレポートの英文化もずいぶん進んでおり、一昨年から本格化させた弊社の英文レポートにも毎回数百を超すアクセスがある。メディア関連企業の有料ウェブサイトで毎日公表される不動産取引ニュースは英訳版も提供されている。価格情報の補足率引き上げが望まれるものの、大都市の主要な取引についてはおおむね把握できているのではないだろうか。そもそも不動産は非常に個別性の強い資産であるため、精緻な市場データがなくとも、ある程度の気配値やマーケットのトレンドがわかれば、プロの投資家にとって大きな問題はないはずだ。

中国に抜かれたとはいえ、国別のGDPでみれば日本は世界第3位の経済大国であり、東京の不動産市場は世界最大規模で、東京は森記念財団による「世界の都市総合ランキング(Global Power City Index)」ではロンドン、ニューヨーク、パリに次いで第4位の都市となっている。このような国内市場の十分な大きさや厚みに加え、日本語の壁と独自に発達してきた市場慣行が参入障壁となり、日本の不動産プレーヤーは、「ガラパゴス」といわれる携帯電話業界や音楽業界などと同じく、国内市場の成長に依存するだけで十分な収益確保や事業拡大が期待できる世界にどっぷり浸かってきたといえる。その意味で、日本の不動産市場がさらに透明度を高めるための大きな障壁は、海外からの目線や異なる価値観で物事を考えたり積極的にアピールしたりすることが苦手な、日本人特有のマインドセットやビヘイビアそのものではないだろうか


 

 日経BP社の『日経不動産マーケット情報』ウェブ版では、不動産の売買や開発ニュースが毎日更新されている。また、同社では1万2000件を超えるオリジナルの売買事例データに加えて、J-REIT物件の運用データや開発プロジェクトの検索などが可能な日本最大級の投資用不動産取引データベースを有償で提供している。

 地球規模で展開される都市間競争下において、より魅力的でクリエイティブな人々や企業を世界中から惹きつける力こそが「都市の総合力」とする観点で、世界を代表する主要40都市について評価し順位付けしている。調査方法は、都市の力を表す主要な6分野(「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」)における70の指標に基づいて評価を行い、さらに現代の都市活動を牽引する4つのグローバル・アクター(「経営者」「研究者」「アーティスト」「観光客」)に都市の「生活者」を加えた合計5つのアクターに基づき、これらのアクターのニーズと都市の指標を重ねたマトリックスから複眼的にアクター別の都市の魅力を評価するもの(一般財団法人森記念財団ホームページより抜粋)。

 本稿は、不動産経済研究所『不動産経済ファンドレビュー』2012年12月5日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。

(2012年12月10日「研究員の眼」)

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