コラム
2010年05月24日

就活はどこまで早められるか

遅澤 秀一

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近年、大学生の就職活動の時期が早まり、3年生で就職活動を始めることが普通になってきている。問題なのは期間も長期化していることである。就職活動が不首尾の場合、卒業まで延々と続くことになる。そのため、大学関係者の間では教育への悪影響を懸念する声が強い。だが、就職協定が機能し就職活動が4年生の秋口から行われていた時でも、卒論指導の重要な時期を就職活動に忙殺されるのは教育上弊害が大きいと、言われていたものだ。現在に比べればまだましだったと言えるが、それでも企業は大学の教育成果に関しては(特に文系学部では)あまり期待していなかった。大学がレジャー・ランドだと言われていたのは、今に始まったことではないのである。

昔も今も企業が大学教育にあまり期待していないのであれば、就職活動の時期はいつがよいのだろうか。思考実験として、どこまで早められるか考えてみよう。大学教育が人的資本の価値を高めず、単に企業が求める人材である確率が高いとのシグナル情報に過ぎないのであれば、入学式の直後であっても良いはずである。極論すれば、内定後、すぐに中退して入社してもよいことになる。

だが、現在の大学の問題点は、人的資本蓄積どころかシグナル機能すら疑わしくなっていることであろう。同じ大学・学部・学科に属していても、同じ試験を受けて入学しているとは限らないからだ。OA入試による基礎学力の低下は、大学人からも指摘されている。

そうであれば、就職のシグナルとして公務員試験の一般知能・一般教養試験(同等のものであれば試験主体は民間でもよいが)を使ったらどうだろうか。もちろん合否だけでなく点数も出すのである。その試験のレベルと点数を以って大学のシグナル効果に代えればよい。採用に支障がないのは、すでに公務員の採用に使われているのだから実証済みである。要するに、就職活動は高校・大学在学中随時ということになる。

そうなれば、経済的理由で大学進学できない人でも就職に不利にならず公平感もあるだろう。一旦就職した後、よりレベルの高い試験の成績と実務経験をもって、転職先を探すことも可能になる。卒業年度による有利・不利という不公平も減少するはずだ。また、一般的な能力の他に専門的な知識が必要な分野では、該当する専門試験も課せばよい。

このような試験で判断することに異論がある人も多いだろう。しかし、現在の就職戦線でも実態はあまり変わらず、しかも、はるかに不完全で不公平である。ウェッブでの採用エントリーに際して、大学名で実質的に門前払いを食わされるくらいならば、何度でもチャレンジできる試験の方がまだましだと考える学生も多いだろう。試験慣れしている若い世代にとっては、違和感はむしろ少ないかもしれない。

そうなった場合、企業が求める知識やスキルを教育できたり、研究者養成を目的としたりする大学・学部・学科以外は淘汰されるかもしれない。だが、社会が評価しない大学教育に税金を投入するのは無駄である。大学を出て3年間大企業に勤務した場合、転職先に困らないのに、同じ大学を出て3年間フリーターになると正社員として採用されることが難しくなるのは、なぜなのかを考える必要があるだろう。もし大学が学生にとってレジャー・ランドだとするならば、それは教官や職員にとってもレジャー・ランドなのである。
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