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- 不動産ファンドブーム終焉、今こそスモールビジネス取組みの好機
しかし、彼らの中には、もともとはユニークな不動産ビジネスを手がけて注目されていた会社も少なくない。たとえば、コーポラティブ・ハウス(自由設計マンション)やデザイナーズ・マンションの開発、賃貸住宅の家賃保証システムの提供、中古不動産の順法化や最適用途への改修によるバリューアップ事業、などである。これらは、個々の事業規模は小さいが、商品としても社会的にも確かなニーズがあるものばかりだ。残念ながら、ビジネスモデルとしての洗練を待たず、大きな利幅が見込める「流動化ビジネス」に安易に軸足を移した会社が多かった。
一方、A社は、このようなブームと距離を置き、中古マンションの区分所有権を購入し、改修を加えて再生した後にエンドユーザーに売却するビジネスモデルを確立したが、その業績は現在も堅調である。1件当りの金額は大きくないが、適切に改修された中古マンションに対するエンドユーザーの潜在需要は大きい。このほかには、女性が一人で安心して泊まれる廉価な宿泊特化型ビジネスホテルは、ここ数年で市場が大きく広がった。
また、家族形態やライフスタイルの変化を背景に住宅需要の多様化・高度化は著しく、スケルトン・インフィル住宅や定期借地権住宅など、住宅分野にスモールビジネスは多い。最近、新築分譲マンションが販売不振を極める中、専有部も含めて所有者のニーズにきめ細かく対応しようというマンション管理ビジネスがようやく脚光を浴びはじめたが、これもスモールビジネスであろう。もちろん住宅分野に限らず、不動産は生活や企業活動の基盤として不可欠な財であるだけに、ファンドブームの下では省みられなかったスモールビジネスの種は、掘り起こせばいくらでもありそうだ。
確かに、高いレバレッジを効かせた巨額の資金調達で、グループ内や業者間の転売で大儲けできた「流動化ビジネス」に比べると、エンドユーザーの小さなニーズを地道に拾い上げて事業化するスモールビジネスは、手間隙もかかって泥臭く、かつ利幅も薄いものが多いといえよう。しかも、必要とされるのは、潤沢だが強欲な資金や変わり身の早さではない、不動産が持つ本来の価値を顕在化できる、あるいは新しい価値を創造できる知恵と、業界の既成概念に挑戦するハングリー精神、そして額の汗である。金融システムが機能不全に陥り、景気回復の道筋も見えない今こそ、生活提案産業、都市基盤産業としての誇りを持って、スモールビジネスに地に足をつけて取り組む好機ではないだろうか。
(注)「不動産経済ファンドレビュー」2009年3月5日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。
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松村 徹
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