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- 景気の「気」 -サーベイ・データの特性と期待形成-
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景気変動にとって、期待は重要な要素である。本論の目的は、期待を計測したサーベイ・データの特徴を整理した上で、これから窺える経済主体の期待形成について実証分析を行い、サーベイ・データの特性および、経済主体の期待形成に与える要因を明らかにすることにある。
本論の結果を要約すると、
1
サーベイ・データが経済主体のどのような期待を反映しているのか、必ずしも明らかでない指標もある。たとえば、「消費者態度指数」(内閣府)である。この指数には「物価の上がり方」が含まれ、物価の上がり方が「高くなる」という意識(回答)は消費者のマインドを悪化させる方向に、他方、「低くなる」は改善の方向に働くものとして計算・合成されてきた。しかし、物価の下落が所得の減少や雇用環境の悪化を伴う近年の経済環境においては、「物価の上がり方」が「低くなる」という意識が消費者態度指数を改善させる方向に作用する現行の作成方法は必ずしも適切なものとはいえない。また、5種類の消費者の意識を合成した指数が消費者行動の何を反映した変数なのか、必ずしも明確ではない。
2
消費者サーベイでは、80年代は生産の需給動向に影響されるものの、90年代に入ると、GDPや雇用関連の情報が影響を与えている。また、「消費動向調査」に比し、「生活不安度指数」(日本リサーチ総合研究所)は新聞掲載記事の影響を受けやすい。これは、両者の統計の対象期間、調査頻度が影響を与えていると考える。
3
企業サーベイの場合、80年代は名目GDP、為替との関係が強い。85年のプラザ合意以降の大幅な為替増価が期待形成に影響したと考えられる。90年代に入ると、「雇用」「雇用不安」などの記事および完全失業率、企業倒産件数など雇用関連の情報が影響を与えている。
4
一般的に注目度が高いとされる株価は、サーベイ・データに影響を与えていない。
5
消費者の期待形成はBackward-Looking 的であり、企業の期待形成がForward-Looking的である。バブル崩壊後、家計の期待形成ではBackward-Looking 的な傾向が強まり、保守的な期待形成にあることが窺える。家計では、金融政策を始めとする政策効果が即座に浸透しにくい状況にあると考えられる。現在のデフレ期待の払拭には、地道な努力が必要なのかもしれない。
6
サーベイ・データは、近年、その重要性から月次化が進められている。調査頻度を上げるとより景気に敏感になるのは、「生活不安度指数」でもみられることである。現在、消費動向調査(消費者態度指数、内閣府)の月次化は東京都のみと限定的であるが、完全な月次化への移行が望まれる。
(2003年12月25日「ニッセイ基礎研所報」)
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