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- 米国医療保険制度の改革 -「米国再生」の条件-
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<要旨>
- 米国の医療保険制度は、先進諸国でも希なことに「国民皆保険」が実施されていない。これは伝統的に、医療は「個人の自由と選択」であるとの考え方が根強い中、政府の介入に対する抵抗、財政的制約が大きく影響しているためと考えられる。現行の医療保険制度は、(1)企業が従業員に付加給付として提供する民間医療保険、(2)政府が社会保障として提供する公的医療保険(高齢者:メディケア、低所得者:メディケイド)に大別される。
- こうした現行の医療保険制度は、世界的にみて高度な米国の医療水準を発展させた反面、(1)医療保険コストの高騰、(2)3900万人に上る膨大な無保険者の存在、(3)財政圧迫-等、大きな弊害をもたらしている。これらの問題は米国経済の活力を障害すると同時に、人種・階層間の不平等の拡大、犯罪・麻薬問題などと絡んで深刻な社会問題となっており、改革が急務である。
- クリントン政権は93年9月に医療保険制度改革案(以下、クリントン案)を発表し、現在、議会の各種委員会で法案の審議が進められている。しかしクリントン案は、「国民皆保検の導入」と「医療保険コストの抑制」という相矛盾する二つの政策目標を柱としており、かなり楽観的な前提に基づいた計画となっている。すでに、議会予算局(以下、COB)は、政府の「甘い」見積もりを厳しく批判しており、今後の法案成立までにおいて何等かの修正、政治的妥協は避けられない状況にある。改革案の行方は、94年秋の中間選挙、96年の大統領再選にも大きく影響しよう。
- クリントン案による短期的な経済・金融面(景気、財政赤字、金利等)での影響は小さいとみられる。しかし中長期的な観点からは、改革の失敗は構造的な財政赤字の拡大(医療費、利払い費など)、コスト・プッシュ型インフレの誘発、金利上昇を通じて、実態経済と金融市場に大きな悪影響を及ぼす懸念がある。反面、改革の成功は、(1)医療保険コストの抑制→企業の競争力強化、物価安定→投資・輸出・消費拡大、(2)財政赤字の抑制→金利の低位安定、利払い費の抑制→投資促進、(3)人的資源の質の向上-等、中長期的な生産性向上を通じた「経済の再生」のために必要不可欠な条件となろう。
- 医療保険制度の改革は、米国経済社会の根幹に関る大改革であるだけに、クリントン政権は粗末な政治的妥協による制度の「改悪」は避けるべきである。特に、最大の問題となっている財源については、付加価値税、ガソリン税、銃砲税など、追加的な増税措置をも含めて現実的な改革案を提示すべきであり、そのためには、「明確な改革の理念」と既得権益の再調整を可能ならしめる「国民の支持」が必要である。
(1994年06月01日「調査月報」)
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