1992年08月01日

経済の動き

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<米国経済>

92年1-3月期の実質GDP(確定値)は前期比年率2.7%となり、91年10-12月期の同0.4%%から緩やかな回復を示した。但し、6月に発表された月次指標から判断すると、回復のペースは鈍化しており、今後の景気動向は依然として不透明な状況にある。最新のN.Y.基礎研CQM(6月29日実施)でも、92年4-6月期の実質GDPは前月比年率0.4%となっており、6月の雇用統計の結果により、更に下方修正される可能性もある。当面の景気動向には注意を要しよう。

6月の非農業雇用者数は前月比▲11万7千人減少と、大方の事前予想値を大幅に下回る悪い結果となった。部門別にみても、政府部門やヘルスサービス等で若干の雇用増がみられたものの、製造業、非製造業ともに大幅減となっており、雇用環境の改善は全般的に遅れている。なお、失業率も7.8%と前月の7.5%から0.3%上昇し、8年3ヵ月振りの高水準となった。

生産関係の指標では、5月の鉱工業生産は前月比0.6%と4ヵ月連続で増加した。稼働率も79.0%と水準は依然として低いものの、4ヵ月連続で上昇している。但し、6月の雇用統計から判断する限り、今後の生産指標が引き続き増加基調を維持できるとは考えにくい。

家計部門の指標では、5月の実質消費支出は前月比0.3%と若干の増加、実質可処分所得は同0.1%とほぼ横這いとなった。但し、消費に最も影響を与える所得は、雇用の伸びに大きく左右されるため、6月の雇用環境の悪化が今後の消費の回復に悪い影響を与えることも考えられる。マインド面でも、6月の消費者信頼感指数は71.7%と5月の71.9%に比べ若干低下している。

物価動向については、5月の消費者物価は総合で前月比0.1%(エネルギーと食料品を除くコア部分は同0.2%)と落ち着いた動きを示した。物価を取り巻く諸環境(賃金、単位労働コスト、設備稼働率等)にも大きな変化がなく、当面、物価の安定基調は続くとみられる。

金融関連では、雇用の予想外の悪化や、マネーサプライの大幅減少等を受けて、FRBは7月2日に公定歩合、FFレートをともに0.5%引き下げ、各々3.0%、3.25%とした。引き下げの理由として、(1)与信とマネーサプライの持続的な弱さ、(2)物価の安定、(3)景気回復の進展のばらつき―が挙げられている。この結果、公定歩合は63年6月以来の低水準となった。

今後の金融政策については、金融緩和が実施された後でもあり、当面は景気動向を注視しながらの現状維持の政策となろう。



<日本経済>

日本経済は、景気減速が一層本格化している。5月の日銀短観では、主要企業・製造業の業況判断DI(「良い」-「悪い」、社数構成比、%)が▲24と円高不況期(87年2月▲27)並みの水準にまで低下した。また、92年1-3月期の実質GNP成長率は、前期比年率4.3%増と比較的高い伸びを示したが、これは(1)「うるう年」効果、(2)純投資収収益受取の増加、(3)公的在庫(ほとんどが食管会計上の米)の増加、など一時的ないし特殊要因が加わっており、実勢ベースよりも高めの数値がでたと考えられる。

特に景気の変動をより敏感に反映する鉱工業生産の動きをみると、5月に前年同月比▲8.7%の減少と第1次石油危機後の不況期(75年7月、同▲9.6%減)以来ほぼ17年ぶりのマイナス幅を記録している。大幅な減産にもかかわらず、出荷が伸び悩んでいるため製品在庫に再び積み上がりの気配がみられる。この背景には最終需要の伸び悩みがある。最大の需要項目である個人消費をみると、堅調な雇用と安定した物価を背景に底堅い伸びを示していたが、4月の家計調査で全世帯の実質消費支出が前年同月比▲0.5%減と4ヵ月ぷりのマイナスを記録する等、弱含んでいる。これは、所定外給与の減少や就業者数の伸び悩みなどから所得の伸びが低下している他、株価下落による逆資産効果も影響しているとみられる。

また、設備投資については、5月の日銀短観での92年度の主要企業の設備投資計画が若干ながら上方修正(▲3.2%→▲2.1%)された他、法人企業統計でも、92年1-3月期の中小・非製造業の設備投資が6四半期ぶりにプラスに転じる等、底割れリスクは低下している。ただ、先行指標である民間建設受注や機械受注(船舶・電力を除く民需)は依然低迷状態にあることから、設備投資の基調は依然弱いと判断される。

唯一回復基調にある住宅投資については、5月の住宅着工戸数が年率換算で140万戸と足踏み状態にある。金利低下、生産緑地法の影響から貸家は増加基調にあるものの、高水準のマンション在庫を背景に分譲が弱含み状態にあり、全体の足を引っ張っている。

一方、こうした景気の低迷を背景に、国際収支は拡大基調にある。5月の経常黒字は年率換算で1300億ドルを超えており、当面、内需低迷による輸入の低い伸びや、円高・海外景気の回復による輸出の増加から、黒字の拡大基調が続く公算が高い。

当面、日本経済は製造業を中心に厳しい状況が続くものの、年度後半には、(1)金利低下の累積的効果、(2)大型補正予算による公共投資積み増し、(3)海外景気の回復に基づく輸出環境の改善、ならびに(4)在庫調整の進展による減産圧力の緩和等から、緩やかに底入れへ向かうとみられる。ただし、その回復力は(1)株価・地価動向、(2)為替動向、ならびに(3)今秋の追加的財政措置の内容等に依存することから、不透明さは払拭されておらず、注意を要しよう。



<イギリス経済>

イギリスでは、90年半ばからの景気後退局面が続いている。92年1-3月期の実質GDPは前期比▲0.6%のマイナス成長となった。一方、物価面をみると、5月の消費者物価上昇率は、前年同月比4.3%と落ち着いた推移を持続している。これは、景気減速に伴う雇用調整の進展による、労働コスト面からの物価上昇圧力の緩和が基本的な背景となっている。国際収支については、91年半ば以降、海外景気の悪化による輸出の減少等から、貿易収支、経常収支ともに再び赤字が拡大する傾向にある。5月の貿易収支、経常収支は各々、▲8億ポンド、▲6億ポンドの赤字となった。



<ドイツ経済>

旧西独(以下、西独)では、景気の調整局面が続いている。92年1-3月期の実質GNPは前期比1.8%の高い伸びとなったが、これは、労働日数が例年より多かったことや暖冬などの特殊要因によるところが大きく、4-6月期はこの反動から前期比マイナス成長が見込まれる。物価面については、5月の消費者物価は、前年同月比4.7%と依然、高い水準にとどまっている。ただし、92年度の平均賃上げ率が91年度を下回ったことから、今後中期的には労働コスト面からの物価上昇圧力は緩和する見通しである。尚、7月には、91年7月に実施された間接税増税の影響の一巡から、消費者物価の前年同月比は、大きく低下する見込みである。国際収支については、92年4月の貿易収支は51億マルクと92年1-3月期の月平均18億マルクから黒字幅が拡大した。これは、世界景気の回復に伴う輸出の拡大か背景となっている模様である。

(1992年08月01日「調査月報」)

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