1991年10月01日

経済の動き

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<米国経済>

91年4-6月期の実質GNP成長率は前期比年率で▲0.1%(速報値は0.4%)と、90年10-12月期から3期連続のマイナス成長となった。但し、その内訳をみると個人消費や住宅投資は増加に転じており、大幅な在庫調整の進展、石油輸入の一時的な急増、等の要因が重なった結果であるため、中身は「悪くはない」と判断される。他の月次統計の動き等とも総合すると、米国景気は4-6月期に底入れしたとのこれまでの見方に変更を迫るものではない。

8月の雇用統計では、失業率は前月と同水準で6.8%、非農業部門雇用者数は前月比3万1千人の増加となったものの、その増加幅は大きいものではなく、景気回復力が弱いことを改めて確認する内容となった。但し、政府部門を除いたベースは、6万5千人増となっており、製造業は4万2千人、民間サービス部門も4万1千人と増加している。

生産関係の指標をみると、7月の鉱工業生産は前月比0.5%と4月から4ヵ月連続の上昇となった。設備稼働率も緩やかではあるが、5月以降前月比で上昇し続けており、景気回復を示唆する内容となっている。

家計部門の指標をみると、7月の実質可処分所得は前月比▲0.1%となる一方で、実質消費支出は同0.4%増となった。70年以降の4回の景気後退局面と比較した場合、(1)貯蓄率が4%台と低水準であること、(2)家計部門の債務残高が既に高水準にあるため、消費者信用残高の伸びも最も低いこと(信用残高は5月以降、3ヵ月連続で前月比マイナスの伸び)から、今後の消費の回復は緩やかなものにとどまるとみられる。

物価動向については、7月の消費者物価は前月比0.2%、生産者物価も同▲0.2%と落ち着いた動きを示している。食料・エネルギーを除いた消費者物価コア部分の前年比上昇率も、1月の5.6%をピークに低下基調にあり、7月は4.8%となっている。今後も物価動向は安定的に推移するとみられるが、その理由としては、(1)需給緩和による労働コストの低下、(2)原油価格の安定、(3)為替の緩やかなドル高傾向からの輸入物価の安定、(4)景気回復に伴う生産性の上昇、等が挙げられる。

FRBは8月6日、FFレートの目標水準を0.25%引き下げ、公定歩合と同水準とした。9月に入ってもマネーサプライの伸びが低迷しているほか、景気の回復力が弱く、物価安定基調が続くことから、さらに今一段の金融緩和期待が強まっている。但し、8月以降発表された景気指標には弱いながらも景気回復を裏付ける内容も多く、今後緩和があるとすれば最終的なものとなろう。



<日本経済>

○景気の減速が明確化

日本経済は減速傾向を持続している。鉱工業生産指数は前月比で見て6月の2.8%減、7月の3.0%増に続き、同・予測指数で8月の0.3%減、9月の0.6%増と低迷状態となる見通し。

また、各機関による91年度企業収益予測でも下方修正が相次いでおり、先行きの不透明感が増大しつつある。

需要面から指標を見ると、住宅着工は前年比で2ケタの大幅減少となっている。ただし、前月比では3月以降140万戸程度(季調済年率)で横這っており、底入れの可能性もある。

設備投資関連では、日銀短観(8月調査)において設備投資計画がすべてのセグメントで上方修正されており、当面は堅調に推移する見込みである。とはいえ、先行指標としての設備受注統計はマイナス傾向となっており、年度後半には前期比の伸び率がゼロとなる可能性も否定できない。

また消費関連指標では、家計消費支出(勤労者世帯)が前年比で5月は4.3%増、6月は9.4%増と、振れが大きい(公務員の俸給の変動が主因と思われる)ものの、概して堅調に推移している。

○タイトな労働需給

労働需給は引き続き逼迫している。有効求人倍率(季調済)は景気減速を反映して6月は1.43倍と、3月のピーク(1.47倍)からは若干低下しているものの、7月についても1.43倍と同水準で、依然高倍率のまま推移している。

労働市場のタイト化を映じて、名目賃金指数(全産業、ボーナス等込み)も、7月は前年比3.3%と堅調な伸びを見せている。
【物価を巡る環境は基調として好転】
国内卸売物価上昇率は、景気減速による財市場での需給緩和、原油価格の低下等によって、7月に前年比1.7%と低下傾向を示している。消費者物価(東京都区部)は8月に前年比3.7%上昇した。上昇幅のアップは天候不順による生鮮食品の値上がりが大きいが、石油製品と生鮮食品を除いたコア部分はピーク・アウトしたとかどうかの判断は困難な状況。

○貿易収支黒字幅の拡大には一服感

7月の通関出超幅は約60億ドル(季調済)で、拡大の動きが1-3月期以降一服状態にある。これは、数量ベースの貿易収支が、既に1月以降縮小傾向に転じていることに加えて、輸入石油価格を中心とした価格面も安定していることが原因。



<イギリス経済>

イギリスの景気は依然後退局面にあるが、消費関連の経済指標を中心に景気回復の兆しが見え始めている。小売売上数量は前月比で6月1.5%、7月0.7%と2ヵ月連続して増加した。また、7月の新車登録台数は前月比で14.4%増加し、4-6月期の前期比▲13.8%から回復した。

物価動向についてみると、7月の小売物価(消費者物価に相当)は前年同月比で5.5%となった。小売物価上昇率は昨年4月に導入されたコミュニティー・チャージ(人頭税)による物価押し上げ要因の剥落、および金融緩和に伴う住宅ローン金利の引き下げ-等から昨年秋以降低下傾向を辿っている。ただし、小売物価指数全体から「モーゲージ金利支払い」項目を除いたコア部分の上昇率は4月以降6%台後半の水準で下げ渋っている。国際収支面では、7月の経常収支の赤字は▲1.7億ポンドと、4-6月期の平均▲3.3億ポンドより改善した。なお、6月の経常収支は当初発表の2千万ポンドの黒字から2千万ポンドの赤字に下方修正された。



<ドイツ経済>

旧西ドイツ地域(以下、西独)の景気は依然堅調に推移しているものの、景気拡大は今年1-3月期に既にピーク・アウトしている。今年4-6月期の実質GNP成長率は前期比▲O.5%と減少した。鉱工業生産は4-6月期に前期比▲O.1%の後、7月も前月比▲1.2%とさらに減少している。

消費者物価に相当する生計費は、7月には石油税増税、電話料金の引き上げ等から、前期比0.9%と大幅に上昇し、前年同月比では4.4%と8年半ぷり高水準に達したが、8月は前月比横這い、前年同月比では4.1%に低下した。これは、昨年8月からの原油高騰による物価押し上げ要因の剥落によるものと思われる。

国際収支については、(1)東独需要の拡大による輸入の増加、(2)世界景気の後退による輸出の減少-等から悪化傾向にある。7月の貿易収支は▲1億マルクと6月(▲14億マルク)に引き続き赤字となった。また、7月の経常収支の赤字は未季調値で58億マルクと、4-6月期の平均(36億マルク)より悪化した。

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