1998年10月13日

70歳高齢者の日常生活実態 -実態調査から見たわが国高齢者の生活-

  岸田 宏司
  小野 信夫

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1.
大変な速度で高齢化が進むわが国社会においては今まさに社会保障制度について新しいパラダイムを構築しなければならないときである。しかし足下を振り返ってみると高齢者の生活ぶりについて、十分に把握できているとは言い難い。本稿では平成10年5月に実施した「70歳高齢者生活実態調査」の結果を中心に現代高齢者の生活実態について現状を報告する。
2.
公的年金を生活費の主たる財源とする70歳高齢者世帯は約7割を占めており、公的年金はゆとり資金ではなく生活資金といえる。70歳高齢者世帯の蓄えは多く、例えば夫婦のみ世帯の貯蓄額は中央値で1,360万円となる。公的年金は日々の生活費になっているが、一方70歳高齢者の貯蓄残高からみて、ゆとりのない生活ではない。
3.
70歳高齢者が感じる経済的不安は、「万が一の生活保障」である。そのため大半が病気や不時の災害などに備えて貯蓄をしている。一方、万一の生活保障についての不安はあるものの老後生活をする上で経済的不安を持つ高齢者は少ない。また家計に不安を持つ高齢者も子どもなどに頼ることができるのか、あるいは社会保障制度が十分に機能しているのか経済的な不安に対する対策を立てる高齢者は少ない。
4.
介護が必要になったときの不安は、家族に精神的、肉体的負担がかかるということである。特に子世代と同居している高齢者は家族の負担に対する不安が大きい。一方夫婦だけで生活している高齢者や一人暮らしの高齢者は適切な介護サービスを受けられるかを心配している。
5.
公的な老後生活支援に対する考え方は、世帯形態によって異なっている。子世代と同居している高齢者、夫婦で生活している高齢者は、「一律平等に生活支援されるべき」と回答しているが、単独世帯は「生活に困った人に手厚く生活支援すべきだ」と回答している。なお、公的な生活支援は必要ではないという自立派高齢者は4.4%であった。
6.
別居する親類、近所の人、友人など自分自身の生活を支えてくれる人的ネットワークの量を把握した。困ったときすぐに手を差しのべてもらえる人的ネットワーク量は、家族と同居する高齢者や夫婦で生活する高齢者に比べて単独で生活する高齢者に多いことが明らかになった。高齢単独世帯の増大に繋がると考えがちであるが、現実には単独高齢者は近隣支援が多く、むしろ問題となるのは高齢夫婦世帯である。
7.
高齢期の生活不安は、「現在の健康状態」「借入金の有無」との相関が強い。健康状態が芳しくない場合は介護の不安、あるいは病気に対する不安などが高い。また、住宅ローンなど借入金のある高齢者は老後の家計に強い不安を持っている。
8.
老後の生活における不安は、貯蓄残高や不動産所有など個人のストックとの関係が強くなっており、「蓄えがなければ安心できない社会になっている」という点は早急に検討を加えるべき課題と認識することができる。このことについては、高齢期に十分な蓄えを確保できるように政策を誘導することとストックが無くとも安心できる社会保障制度を築くことの二通りの政策が考えられる。
9.
前者は、高齢者の蓄えを妨げている要因、即ち住宅ローン返済を支援することである。サラリーマンの家計収支をシミュレーションすると、住宅の購入が家計をかなり圧迫し、給与が伸びなければ退職金のかなりの部分をローンの返済に充てなければならない。今回の調査で明らかになったように貯蓄不足が老後生活の不安の要因となっているのであれば、貯蓄を妨げる最大の要因である住宅取得に何らかの支援が必要になるのではないだろうか。
10.
もう一つの政策としては、ストックが無くとも万が一のための支援は社会保障制度や自助努力で十分に可能になるようにすることである。そのためには万一寝たきりになればどのくらいの費用が必要なのか、重度の病気にかかった場合はどの程度の医療費が必要になるのか、その点を明らかにする必要があろう。いざというときの資金を明瞭にし、そのときのために保険や貯蓄によってリスクをヘッジする事ができれば、高齢期の不安はかなり減少するものと考えられる。

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