1998年10月13日

厚生年金「簡易試算モデル」の開発

森 茂雄

法政大学 社会学部 長沼 建一郎

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1.
次期年金再計算に向けて、公的年金の改革議論が盛んに行われている。
しかし、建設的で具体的な提言―とくに厚生年金の民営化に向けた実現可能な道筋や不足積立金350兆円・二重負担の解決策の提示―を行っていこうとすれば、公的年金の全体像を定量的に把握していくことが不可欠でありながら、それがなかなか出来難い現状にあり、数量的な研究基盤の確立がどうしても必要である。
2.
そこでニッセイ基礎研究所では、厚生年金の「簡易試算モデル」の開発に取り組んだ。これは年金財政計算の他、不足積立金の計算もできるもので、しかも机上で、表計算ソフトのレベルで動くことを目標にした。
なかなか完成の域には達しないが一応の道筋はついたので、今回、多くの方々に実用に耐えるかどうか試していただいて、ご批評ご指導をいただきながら協同してこのモデルの向上を図っていくべく、発表する次第である。
(本文において、この「簡易試算モデル」作成上での考え方、限界等をご報告している。)
3.
当モデルの全体構成としては、表計算ソフトエクセル上に、5ブック、57シートを使って組み立てられている。
統括シートにおいて、シミュレーションを行う変数をインプットすると、各プログラムでの計算結果が返ってくる。既存のモデルに比べて精度が十分に高いともいい難いが、少なくとも、表計算ソフトのレベルでこのようなモデルが構築可能であり、また従来見え難かった年金現価の計算がかなり見えやすい形で示せるものである。
4.
当モデルでは現在使用されている種々基礎率、保険料率を入力したときに、現在公表されているもの或いは議論されているものにほぼ近い数値が得られ、大きな傾向をみる上では十分に実用になる。
このモデルでは、いわゆる「5つの選択肢」のA案~D案が再現できるが、なお柔軟に、その中間レベルまたは時間的に基礎率を変化させていくことも可能である。またこれらのケースで、それぞれ民営化に必要な不足積立金の額も示される(選択肢E案)。
また外生変数(金利、物価、賃金上昇率、給付改定率)や、支出削減率、保険料率、基礎年金拠出金国庫負担率等々は、西暦2050年まで、各年ごとに任意の数値を設定することが可能である。
5.
当モデルが、公的年金研究の有用な道具として活用され、研究を一層深化させる一助となれば幸である。今後、さらにモデルの精度を高めていくとともに、これをもとに未来を担う年金制度の構築に参画していきたいと念じている。

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