2023年11月09日

東京オフィス賃料は下落継続。物流市場は大量供給の影響で空室率が上昇-不動産クォータリー・レビュー2023年第3四半期

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1.経済動向と住宅市場

11/15に公表予定の2023年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.9%)と4四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1。前期の高成長の反動に加えて、輸入が輸出の伸びを上回り、外需が成長率を押し下げる見通しである。

経済産業省によると、7-9月期の鉱工業生産指数は前期比▲1.3%と2四半期ぶりの減産となった(図表-1)。業種別では、「自動車」(前期比+0.7%)は5四半期連続の増産となったが、「電子部品・デバイス」(同▲2.0%)や「化学(除く医薬品)」(同▲1.1%)が減産となった。

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2023年度+1.5%、2024年度+1.4%を予想する(図表-2)2。海外経済の減速から輸出が景気の牽引役となることは当面期待できないものの、内需中心の成長が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比) /図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、住宅価格が上昇するなか、前期まで低調であった販売状況は回復に向かっている。一方で、2023年9月の新設住宅着工戸数は68,941戸(前年同月比▲6.8%)、7-9月累計では約20.7万戸(前年同期比▲7.7%)となった(図表-3)。建築コスト上昇の影響などを受け、着工戸数が減少している。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2023年9月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,120戸(前月同月比+4.1%)、7-9月累計では6,180戸(前年同期比+13.1%)となり5四半期ぶりに増加した(図表-4)。9月の平均価格は6,727万円(前年同月比+1.1%)、m2単価は101.8万円(同+0.6%)、初月契約率は67.7% (同+6.1%)で、価格が上昇基調で推移するなか、初月契約率は前年同期を上回った。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2023年9月の首都圏の中古マンション成約件数は3,191件(前年同月比+6.7%)(図表-5)、7-9月累計では8,794件(前年同期比+4.2%)となり、9四半期ぶりに増加した。

9月の中古マンション平均価格は4,618万円(前年同月比+4.5%)、m2単価は72.4万円(同+4.8%)となった。中古マンション市場では取引価格の上昇が続いている。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(月次、前年比)
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2.地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第2四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「74」(前回73)、横ばいが「6」(前回7)、下落が「0」(前回0)で、住宅地では5期連続で全ての地区が上昇となった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では、マンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では、人流の回復傾向を受け、店舗需要の回復が見られたことなどから上昇傾向が継続した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏の住宅地価格(10月1日時点)は前期比+0.8%となり13四半期連続でプラスとなった。東京都区部では都心5区を中心に上昇が続いているが(図表-8)、詳細を確認すると、価格上昇に対応できない購入検討者が増加しているためか、一部の周辺区では価格の下落がみられ上昇ペースは鈍化している。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3.不動産サブセクターの動向

3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2023年9月の東京都心5区の空室率は6.15%(前月比▲0.25%)と、28ヶ月連続で6%台での推移となっている。平均募集賃料(月坪)は38カ月連続下落の19,750円(前月比▲0.03%)となった。他の主要都市をみると、札幌の空室率が2%台と低位を維持する一方、大阪が4%台、名古屋・仙台・福岡が5%台、横浜が6%台で推移するなど、新規供給の影響によって都市間で差が生じている(図表-9)。また、募集賃料は、東京を除いて前年比プラスとなっている3
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2023年第3四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は24,652円(前期比▲3.9%)に下落し、空室率は6.7%(前期比+0.8%)に上昇した(図表-10)。三幸エステートは、「新規供給のピークは過ぎたものの、新築ビルや建築中ビルがテナント誘致に時間を要する傾向は続いている」としている。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所は、東京都心部A クラスビルの賃料見通しを9 月に改定した4。空室率は、新規供給が一旦落ち着く2024 年にやや改善した後、6%前後で推移すると予測する。また、成約賃料は、現時点とほぼ同水準となる2万6千円近辺で推移する見通しである(図表-11)。
図表-11 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
3 2023年9月時点の平均募集賃料は、前年同月比で、札幌(+3.4%)・仙台(+0.2%)・東京(▲2.0%)・横浜(+1.1%)・名古屋(+1.7%)・大阪・(+0.6%)・福岡(+0.7%)となっている。
4 吉田資『「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2023 年9 月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年09月28日)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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