2023年07月13日

性別を理由とする不利益~女性は家庭のことで仕事に時間を配分できていないことが不利益

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに~「性別を理由として不利益を被った」と感じている割合は、女性は低年齢ほど低い

図表1 「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」に対する回答 ニッセイ基礎研究所が2023年3月に行ったインターネット調査(調査の詳細は後述)によると、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがあるか」という問に対して「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答した割合は、女性は年齢が低いほど低く、男性は年齢が低いほど高い(図表1)。

前稿「性別を理由とする不利益~男性は低年齢ほど不利益を感じている」では、男性は若年ほど不利益を被っていると感じることがある割合が高いことに着目し、34歳以下の男性について、不利益を被っていると感じている人の働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状にどういった特徴があるかを分析した。

前稿に続いて本稿では、34歳以下の女性が、35歳以上の女性より不利益を被っていると感じることがある割合が低いが、それでもなお男性より高いことから、34歳以下の女性に注目して、不利益を被っていると感じている人がどういった特徴をもっているか分析したい。

2――分析方法・結果

2――分析方法・結果

1|使用したデータ
本稿で使用するデータは、ニッセイ基礎研究所が2019年3月から毎年実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果である。調査はインターネットで2023年3月に実施した。対象は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女で、回収件数は 5,747件だった。全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収した。
2|分析方法
若年女性就労者に生じ得る不利益として、家事や育児負担が大きく仕事とのバランスがとりにくいこと、女性だからという理由で役職につけないことや業績を評価してもらえない(または、評価してもらえないと感じている)ことが考えられる。

そこで本稿では、まず、必要な質問に回答した4,788人を対象として性・年齢別に働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を確認することで34歳以下の女性全体の特徴を把握する。続いて、34歳以下の女性602人に分析対象を絞り、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」を被説明変数、家族構成や年収、働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を説明変数(図表2参照)として重回帰分析を行うことで、不利益を被っていると感じたことがある34歳以下の女性の考え方や職場の特徴をみる。
3|分析結果
(1) 使用した変数の概要
使用した働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状に関する変数は、前稿と同様とした。変数の概要は図表2のとおりである。「仕事に満足だ」と「家庭生活に満足だ」は4段階、それ以外の10項目と被説明変数の「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」は5段階で尋ね、図表2では上位2つの合計割合を示した。また、「仕事をしていると活力がみなぎる気がする」「職場での自分の役割に誇りを感じる」「仕事にのめり込んでいる・夢中になってしまう」について、5段階で尋ねた結果に5~1点を配点し3つの合計得点をワークエンゲージメント得点とし1、図表2では平均点を示した。
図表2 性・年齢別 働き方に対する考え方と職場の現状とワークエンゲージメント
34歳以下の女性について、全体と比較した場合の特徴をみると、「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる」「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」が高く、「セクハラ・パワハラを見聞きする」が低い。

女性全体と比較すると、「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」が高く、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」「セクハラ・パワハラを見聞きする」が低い。ワークエンゲージメントは女性全体の平均と同程度である。

34歳以下の女性全体の特徴として、上の世代と比べて仕事で成功したいといった思いが強い。男性も育児休暇を取るべきとの考え方も少し上の世代よりは高いが、女性は子どもができたら家庭を優先するのが望ましいと考える割合が上の年代よりやや高くなっていた。両立支援のための制度は利用できている人が比較的高いが、仕事にも家庭にも時間に余裕がないようだ。
 
1 詳細は、村松容子「ワーク・エンゲイジメントと生産性の単年分析~ワーク・エンゲイジメントと生産性(2)」ニッセイ基礎研究所 保険・年金フォーカス(2022年07月26日)を参照のこと(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/71893_ext_18_0.pdf?site=nli
(2) 重回帰分析の結果
続いて、34歳以下の女性602人に対象を絞り、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」を被説明変数、家族構成や年収、働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を説明変数として重回帰分析を行った。

説明変数として使用した変数は、家族状況(独身/既婚・子どもなし/既婚・子どもあり)、本人年収(300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくない)、図表2で示した働き方に対する考え方や職場の現状、およびワークエンゲージメントである。「仕事に満足だ」と「家庭生活に満足だ」は4段階(満足/まあ満足/やや不満足/不満足)で尋ね、順に4~1点を配点し、それ以外の10項目と被説明変数の「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」は5段階(あてはまる/ややあてはまる/どちらとも言えない/あまりあてはまらない/あてはまらない)で尋ね、順に5~1点を配点した。


結果は図表3のとおりである。

「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」、および「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」「セクハラ・パワハラを見聞きする」にあてはまるほど、また、「男女に関係なく業績で公平に評価されている」にあてはまらないほど「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答していた。また、ワークエンゲージメントが低いほど「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答していた。

「仕事に満足だ」「家庭生活に満足だ」「仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視する」「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい」「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」といった考え方については不利益を被ったと感じていない人との差はなく、「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる」「仕事が原因で家族と一緒にすごす時間が十分にとれないでいる」「仕事が原因で家族と一緒にすごす時間が十分とれないでいる」といった現状についても不利益を被ったと感じていない人との差はない。
図表3 「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」を被説明変数とする重回帰分析の結果(34歳以下女性)

3――おわりに

3――おわりに

以上のとおり、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」割合は、女性では低年齢ほど低い。この30年、企業等では、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図ることや、女性が妊娠中および出産後の健康を確保すること、子育てをしながらも就労できる環境の整備が進められており、若年ほど女性が不利益を被っていると感じる割合が低いことは想定どおりと言えるだろう。しかし、それでもなお、今回の結果では同年代の男性より高かった。

34歳以下の女性全体の働き方に対する考え方と職場の現状の特徴として、上の年代の女性と比べて、仕事で成功したい気持ちが強かった。女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましいと考えている人の割合が上の世代より高く、両立支援のための制度も利用できている人が比較的高い。また、男性も育児休暇を取得すべきという考えを持っている人が少し上の年代の子育て世代の女性より高く、育児をしながら仕事もしていく意向があり、夫の協力も求めているようだ。しかし、仕事にも家庭にも時間に余裕がないようだ。

34歳以下の女性で、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答した人の働き方等に対する考え方の特徴としては、女性が高い地位に登用されることに前向きであり仕事で成功したいという気持ちが同年代の中でも強い。しかし、自分の働き方では家族のあれやこれやで仕事に時間を配分できていないこと、ワークエンゲージメントは低い傾向があること、職場の現状としては男女で公平に評価されていないと感じていること、セクハラ・パワハラを見聞きすることがあると回答している。

男女で公平に業績が評価されていないことやセクハラ・パワハラを見聞きすることがあると回答していることが特徴となっていることから、職場にハラスメントが横行していたり、業績評価等に課題がある可能性が考えられる。しかし、働き方の現状をみると、仕事に時間を配分できていないことや精力的に働けていないことから、家庭のことで仕事に時間を配分できていないことが不利益と感じる要因となっている可能性が考えられる。

今後、家事や育児を担う男性は増えていくことで、仕事で成功したいと思っている女性が、家事や育児による負担が減る可能性が期待できる。その際、こういった女性の不利益がどのように好転していくのか、注視していきたい。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2023年07月13日「基礎研レポート」)

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