2020年04月15日

IMF世界経済見通し-大封鎖で金融危機を超える深い谷へ

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:集計以来、最大の落ち込み

4月14日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO;World Economic Outlook)を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
・2020年は前年比▲3.0%となる見通しで、1月時点の見通し(同+3.3%)から下方修正
・2021年は前年比+5.8%となる見通しで、1月時点の見通し(同+3.4%)から上方修正


世界経済の成長率が▲3.0%まで低下するのは、WEOで成長率を取りまとめている1980年以来で初めてのこととなる。
(図表1)世界の実質GDP伸び率とインフレ率/(図表2)世界の名目GDP(購買力平価ドル)

2.内容の詳細:ベースラインはV字回復だが、回復力は弱い

IMFは、今回の見通しを「THE GREAT LOCKDOWN(大封鎖)」と題して作成した。IMFでは見通しを作成する前提として、パンデミックはすべての国の経済活動に影響を及ぼし、2020年1-3月期に大きな影響が生じた中国を除いて、2020年4-6月期に被害が集中すると想定している。この間、被害の大きい国では2020年の営業日の8%が失われ、そうでない国も5%が失われるとしている。また、新型コロナウィルスの被害により経済活動が抑制される期間については「2020年後半には収束に向かう」としている。

ただし、IMFは依然として新型コロナウィルス(COVID-19)による影響の不透明感は強いことにも言及しており、別途、悲観的なサブシナリオとして以下の3パターンについても試算している。

「(1) パンデミックが長期化する(ベースライン対比50%長期化)」
「(2) 2021年にやや軽度な第二波の流行が起きる(ベースライン対比で2/3の流行)」
「(3) 上記(1)と(2)が同時に起きる」

IMFによるこれらの悲観シナリオの試算結果について、(1)の場合、2020年のGDPはベースラインと比べ対比3%低く、2024年に至ってもベースラインより1%は低いままである、としている。また、(2)の場合は、第二波を想定する2021年でGDPがベースラインより5%低く、2024年に至っても2%程度低いままである、と試算している。(3)は(1)と(2)の影響が同時に起きることになるが、2021年以降は単純な合算より影響は大きくなり、2021年はベースラインGDP対比で8%低く、2024年でも4%低いとしている。図表1・2の通り、ベースラインのシナリオでは、2020年に新型コロナウィルスの影響が収束した後にV字型で回復するが、悲観的なシナリオは谷が深いだけでなく、回復力もかなり削がれるものとなっている。
(図表3)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率 次に、ベースラインのシナリオで各国・地域の状況を確認しておく。まず、先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率を見ると、図表3の通り、成長率の水準の違いはあるものの、いずれも2020年に減速し、新興国・途上国全体でもマイナス成長となることが分かる。中国を含むアジア新興国・途上国はかろうじてマイナス成長を免れるものの、それでも記録的な低水準となっている。

先進国については、2020年に前年比▲6.1%と急減速し、2021年は+4.5%まで回復する。しかしながら、回復力は成長率の鈍化に対して力不足といえる。
2021年の回復力に関して更に詳細に見てみよう。図表4には、主要国の成長率見通し、および2019年を100としたときの実質GDP水準の見通しを記載している。世界全体では、2021年の実質GDP水準は2019年以上に回復しているが、回復をけん引しているのは、中国・インド・ASEAN5をはじめとした特にアジア新興国地域であり、残りの国は、中東やサブサハラの一部を除き、2021年時点でも2019年水準には回復しない。先進国では全体的に回復が鈍いが、特にユーロ圏において成長率の減速が急であり、かつ2021年の回復も遅いことが分かる。
(図表4)各国・各地域の成長率と実質GDP水準
最後に、各国・各地域の失業率を見てみよう。IMFでは新興国・途上国地域の失業率については集計・試算していない国が多いため、先進国を中心に見る。図表5によれば、米国(2019年3.7%→2020年10.4%)、スペイン(2019年14.1%→2020年20.8%)など、一部の国で急上昇していることが分かる。先進国全体では、2019年4.8%→2020年8.3%→2021年7.2%と推移しており、経済が回復すると見込む2021年になっても失業率の低下は限定的にとどまっており、労働状況の悪さが長期化することが想定されている。
(図表5)各国・各地域の失業率
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2020年04月15日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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