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コラム
2025年08月20日

曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その12)-螺旋と渦巻の応用-

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対数螺旋の応用

対数螺旋については、その成長と形成過程との関係から、自然界で多く観測されるということについては、前回及び前々回の研究員の眼で述べてきた。

このため、対数螺旋については、デカルトやベルヌーイ等によって数学的な解析が行われる以前から、人々に認識され、美術作品や建造物等に用いられてきた。例えば、前回の研究員の眼で紹介した、古代ギリシア建築におけるイオニア式柱頭のヴォリュートに対数螺旋に近いものがあり、バチカン美術館の螺旋階段は、真上から見ると対数螺旋になっていると言われている。また、日本の古建築の植物や動物の文様に対数螺旋が組み込まれていて、視覚的な美しさを生み出しているようだ。

さらに、現代のロゴやシンボルマーク等の設計において、対数螺旋が活用されていたりする。

工学分野では、例えば水力発電におけるフランシス水車などの水車原動機のケーシング(渦形室)等の設計に対数螺旋が用いられている。

前回の研究員の眼で紹介したように対数螺旋の等角性を利用したベルヌーイカーブ刃のハサミも発売されたりしている。

インボリュート(曲線)の応用

歯車の歯の形には円の伸開線(インボリュート)の一部が使われている(インボリュート歯車)。これは、二つの歯が接する点における接線が共通するような形になっているため、歯車の回転速度が一定になり、歯車の間のエネルギー伝導が最適になることが望めるからである。このような歯車に関して、他にも様々な注目すべき性質がある。

エアコンの室外機であるコンプレッサー(圧縮機)には、スクロール方式が採用されているが、固定スクロールと可動スクロールではインボリュートも使用されている。

音楽の世界における螺旋・渦巻き 

音楽の世界で「カノン(Canon」といえば、「パッヘルベルのカノン」を思い浮かべる人も多いのではないかと思われる。これは、バロック時代のドイツの作曲家ヨハン・パッヘルベルの室内楽曲「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調」の前半のカノンの部分であるが、今やとても有名な曲になってしまって、カノンだけが単独で演奏されることが殆どとなっている。

「カノン」というのは、複数のパートが同じ旋律を異なる時点から開始して積み重なるように演奏していく様式の曲を指している。「輪唱」が全く同じ旋律を追唱するのに対して、「カノン」には各種の種類があり、例えば「平行カノン」(同じ旋律を様々な音程で繰り返す(全く同じ旋律の「同度のカノン」や5度移動させた「5度の平行カノン」等))、「逆行カノン」(楽譜を左右逆にする)、「反行カノン」(楽譜を上下逆にする)、「拡大(縮小)カノン」(音価(ある音に与えられた楽譜上の時間の長さ)を引き伸ばす(短縮する))等がある。さらには、例えば楽譜には単旋律のみが記されていて、追唱の開始点や音の高さ等を示した記号に基づいて、奏者が謎を解くように演奏する「謎カノン」と呼ばれるものもある。

さて、このカノンには、終止部がある「有限カノン」と、際限なく繰り返される「無限カノン」、その一種として、繰り返しごとに転調していく「螺旋カノン」と呼ばれるものがある。「螺旋カノン」は、一つの旋律を繰り返すごとに少しずつ音程が高くなっていく。実際には可聴域との関係もあり、音程が無限に上昇していくことはできないので、音程が上昇するにつれて1オクターブ下に新しく旋律が追加されていくことで、無限に上昇していく感じを得ることができるようになっている。縦に時間を横(あるいは円周)に音程の動きをとれば、まさに「螺旋」を描くような構造となっている。

「パッヘルベルのカノン」は、3つのパートが全く同じ旋律を追唱し、それに伴奏が付けられたものとなっている。弦楽四重奏で演奏される場合、チェロによる通奏低音の前奏の後に、有名な旋律を第1ヴァイオリンが演奏し、その同じ旋律を2小節後から第2ヴァイオリンが演奏し、さらにその後に同じ旋律をビオラが演奏する。この間、通奏低音のパートはチェロによって演奏される。

カノンが使用されている他の有名な曲として、ヨハン・セバスチャン・バッハの「音楽の捧げもの」がある。この曲には、螺旋カノンに加えて、平行カノン、逆行カノン、反行カノン等の各種のカノン10曲が含まれている。また、同じくバッハの「ゴルトベルク変奏曲」には9つのカノンがあり、その後さらにバッハの好きな数字である14曲のカノンが追加されている。

螺旋一般の応用

皆さんも目にする機会が多いことからもわかるように、螺旋は、各種のアート作品や工業デザインにおいて、幅広く利用されている。それがどのような螺旋なのかについて特定することは必ずしも容易ではなく、特にアート作品等ではいくつかの螺旋のハイブリッドになっているケースもあるものと思われる。工業デザインの場合には、螺旋の特性との関係で最も効率的あるいは人々が心地良さを感じられる等のより実用的な意味合いが考慮されることから、特定の螺旋が使用されるケースが多くなるものと思われる。

最後に

今回は、「螺旋」や「渦巻」が社会の中でどのように役立っているのかについて、前回紹介した内容と一部重複する部分も含めて、いくつかを紹介してきた。今回紹介したもの以外にも数多くのケースで利用されている。

冒頭に述べたように、「螺旋」や「渦巻」については、日常生活の中で見かける機会も多く、ある意味で親しみやすい曲線であるといえる。それは、これらが自然界において「自然に」形成されてくる曲線だから、ということに深く関係している。だからこそ、社会のいろいろな分野でも応用されて、社会の発展に大きく貢献してきている、といえるだろう。

これから、日常生活等の中で、螺旋構造が使用されている例を発見するたびに、このことを再認識していただければと思っている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月20日「研究員の眼」)

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