コラム
2025年03月11日

国民負担率 24年度45.8%の見込み-高齢化を背景に、欧州諸国との差は徐々に縮小

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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財務省は、3月5日に国民負担率の実績や見込みなどを公表した。国民負担率は、個人や企業の所得に占める税金や社会保険料の割合で、公的負担の重さを国際比較するための指標として利用されている。毎年、この時期に公表されており、昨年度までの実績、今年度の実績見込み、来年度の見通し、の3つの率が示されている。この国民負担率について、考えてみよう。

◇ 国民負担率は、国民所得に対する比率とされることが一般的

国民負担率は、国税や地方税の租税負担と、国民年金や健康保険の保険料などの社会保障負担の合計を、所得で割り算して算出する。所得には、国民所得もしくは国内総生産(GDP)が用いられる。メディアで主に報じられるのは、国民所得を用いた数字だ。

広辞苑(第七版)(岩波書店)によると、国民負担率は、「国・地方租税負担と社会保障負担(社会保険料負担)の合計額の、国民所得に対する比率」を意味する。他の国語辞書も同様だ。所得として国民所得を用いた数字が、国民負担率とされることが一般的と言えるだろう。

国民所得は、個人が労働によって受け取る給与や報酬、預金や有価証券などから生じる利子や配当などに、企業の収入である企業所得を足し算して計算される。

◇ 2024年度の実績見込みは45.8%

国民所得をベースとする国民負担率の、2023年度の実績は46.1%、2024年度の実績見込みは45.8%と示された。前年度に比べて、-0.3ポイント低下と見込まれた。これは、昨年6月に実施された定額減税(納税者と配偶者を含む扶養親族に対して、2024年分の所得税3万円、2024年度分の個人住民税1万円の減税)の影響とみられる。

国民負担率の過去の推移を見ると、2020年度には前年度から+3.5ポイントもの大幅上昇となっており、2022年度には過去最高の48.4%となった。それ以降も、40%台後半の高い水準が続いている。

国民負担率の変化を、少し長いスパンで10年間の単位で見てみよう。2013年度から2023年度にかけて10年間の上昇は、+6.0ポイントとなっている。その前の10年間(2003年度から2013年度にかけて)の上昇も+6.0ポイントだったため、上昇幅は同じだったことになる。

2025年度の見通しは46.2%であり、前年度から+0.4ポイントの小幅上昇とされている。これは、定額減税の影響がなくなるためと考えられる。

近年の国民負担率の上昇には、2014年4月と2019年10月の2度の消費税率引き上げや、高齢化に伴う医療や介護などの社会保障負担の増大という背景がある。2022~24年にかけて、1947~49年生まれの、いわゆる団塊の世代が75歳以上となった。その結果、高齢者の医療や介護のニーズは、さらに高まることが予想される。長期的に見ると、国民負担率の上昇圧力は増大していくと言えそうだ。

◇ 潜在的国民負担率はコロナ禍への対応により急上昇したが、その後は低下

国民負担率に、国が抱える財政赤字(対国民所得比)を加えたものは、潜在的国民負担率とされる。租税負担や社会保障負担に、将来世代が負担する財政赤字を加えた、潜在的な負担水準といった意味合いだ。

この潜在的国民負担率は、2020年度に62.7%となり、対前年度+13.2ポイントもの大幅上昇となった。コロナ禍への対応で財政赤字が大きく膨らんだことが反映された形となっている。

この率は、2023年度には50.0%に低下している。2024年度の実績見込みは50.9%、2025年度の見通しは48.8%と、ピークの2020年度に比べて低下するとみられている。

◇ 日本は欧州諸国と比べると低水準だが…

それでは、日本の国民負担率は、諸外国と比べてどうか? 国民負担率の国際比較を見てみよう。

比較可能な直近のデータとして、2022年(日本は年度(以下同様))の数字を見てみる。日本48.4%(対前年度 +0.3ポイント)、アメリカ36.4%(対前年 +2.5ポイント)、イギリス49.7%(同 +2.1ポイント)、ドイツ55.9%(同 +1.0ポイント)、スウェーデン55.5%(同 +0.5ポイント)、フランス68.1%(同 +0.1ポイント)となっている。この6ヵ国のいずれも上昇しているが、日本の上昇幅はフランスに次いで小さい。

ただし、先述の通り、日本は2020年度に前年度から+3.5ポイントもの大幅上昇となっている。2019年から2022年にかけての上昇で見ると、日本が一番高いことに注意する必要があるだろう。

日本は、社会保障負担が伝統的に低水準のアメリカよりは高いが、高福祉の欧州諸国よりも低く推移してきた。

しかし、近年、日本の国民負担率の伸びは大きい。リーマン・ショック前の2006年からの増減をみると、日本は他の国よりも大きく上昇しており、欧州諸国との差は縮小している。2022年度の実績が48.4%に上昇したことを踏まえると、2023年の比較では、ドイツ、スウェーデン、フランスにさらに迫る水準となっている可能性がある。
図. 国民負担率の国際比較
次に、潜在的国民負担率について、2022年の数字を比較してみよう。日本54.6%、アメリカ41.1%、イギリス55.9%、ドイツ58.8%、スウェーデン55.5%、フランス74.8%となっている。この6ヵ国の比較では、日本は、イギリス、ドイツ、スウェーデンに迫る水準となっている。

世界で最も高齢化が進む日本では、徐々に、租税や社会保障の負担が増しているといえる。

◇ 海外ではGDP比の指標が一般的

国民負担率を海外と比較するときは注意が必要だ。そもそも“国民負担率”という用語は、世界的に使われている言葉ではない。直接対応する英語やフランス語はなく、日本独特の用語だ。

日本では従来、租税と社会保障の負担を国民所得で割り算した数字を国民負担率としている。これに対して、海外ではGDP比でみた租税や社会保障負担の指標(以下「GDP比の指標」と呼ぶ)を用いることが一般的だ。財務省は、OECD(経済協力開発機構)加盟国のデータから、国民所得とGDPをベースにした2つの数字をそれぞれ計算し、各国の“国民負担率”として国際比較を公表している。

国民所得とGDPには、大きく3つの違いがある。国民所得はGDPをもとに算出するが、 (1) 海外での日本人の所得を加える一方で、国内の日本人以外の所得を除く、 (2) 設備などの減価償却(固定資本減耗)を除く、 (3) 価格に上乗せされた消費税などの間接税を除く一方で、値引きに使われたとみられる補助金を加える ―― といった調整をしている。

このうち、(3)の間接税の税率は、特に影響が大きい。たとえGDPが同じでも、間接税の税率が高いと、国民所得は小さくなる。そのため、GDP比の指標に比べて、国民所得をベースとする国民負担率は高くなる。つまり、間接税率の高い欧州諸国は、国民負担率が高めに算出されやすくなるわけだ。

◇ 国民負担率をGDP比でみると、ドイツ、スウェーデン、フランスとの差は縮まる

実際に、GDP比の指標の国際比較をみてみよう。

先ほどと同様に2022年の数字で、日本34.9%、アメリカ27.9%、イギリス37.0%、ドイツ41.4%、スウェーデン37.0%、フランス47.7%となる。各国とも国民所得ベースの国民負担率より数字が下がるが、日本の低下幅はドイツ、スウェーデン、フランスよりも小さい。
図. 2つの指標での国民負担率の国際比較(2022年)
GDP比の指標は、世界で一般的に用いられているものの、分子と分母の両方に間接税が含まれているため、その影響があらわれにくい。国民所得ベースの国民負担率は、間接税の影響は出やすいが、日本独特の指標となっている。

国際比較の際には、GDP比の指標と国民所得ベースの国民負担率の2つの指標を併用して、多面的に見ていくことが必要と言えるだろう。

◇ 実績が、実績見込みや見通しの推計値から大きく変化することもある

また、国民負担率をみるときには、実績が前年以前に示されていた実績見込みや見通しからどの程度変化しているかにも注意が必要だ。

実績見込みは、年度途中で、今年度末までの実績を見込むもの。見通しは、来年度の見通しを示すものだ。これらは、経済動向の前提に基づく、国民所得や税収などの推移を反映した“推計値”だ。前提の置き方によって、推計値は変わってしまう。

これまでに公表された国民負担率の実績をみると、2023年度の実績(46.1%)は昨年示された実績見込みと同じだったが、2022年度の実績(48.4%)は一昨年示された実績見込み(47.5%)や3年前に示された見通し(46.5%)よりも高かった。

2024年度についても、来年示される実績をしっかりとフォローしていくことが必要と考えられる。
表. 国民負担率の推移
以上をまとめると、日本と欧州諸国の国民負担率の差は、今後さらに縮まっていくかもしれない。世界で最も高齢化が進む日本では、国民負担率の動向について、引き続き、注意していく必要があると言えるだろう。

(参考資料)
 
「令和7年度の国民負担率を公表します」(財務省ホームページ, 令和7年3月5日)
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/20250305.html
 
「広辞苑(第七版)」(岩波書店)
 
「ポイント 所得税・個人住民税の定額減税」(首相官邸ホームページ, 政府与党政策懇談会資料, 令和5年10月26日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/s_kondan/pdf/r051026_siryou.pdf

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(2025年03月11日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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