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僧侶めくりのスリル-最後にドラマが待っているかも

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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この感じは、年齢を重ねるごとに強くなっていくようだ。例えば、5歳の子どもにとっては、1年はこれまでの人生の20%に相当する。生活のなかで新たな発見や未経験の出来事に出くわすことがたびたびあり、毎日が新鮮で、時の経つのが緩やかに感じられるだろう。対照的に、50歳の大人にとっては、1年はこれまでの人生の2%に過ぎない。日々の生活で、まったく未経験なことというものはほとんどなく、毎日がなんとなく駆け足で過ぎていく感じになりがちだ。
この「年齢を重ねると時間が速く過ぎるように感じられる」という現象は、フランスの哲学者ポール・ジャネーが「ジャネーの法則」として提唱したもので、脳の活動量が年齢とともに減少することが一因とも言われる。 脳の老化を意味するので、中高齢者にとっては少し注意が必要かもしれない。
さて、話を元に戻そう。年末年始には帰省して、正月を家族や親戚と過ごすという人も多いだろう。そんなときに皆で楽しむ正月の遊びの定番と言えば、百人一首だ。ただ、百人一首のカルタ取りを、未就学児や小学校低学年くらいの子どもが大人と一緒に競い合うことは難しい。そこで、カルタ取りのかわりに行われるのが、百人一首の読み札(人物の絵が描かれている札)を使った「僧侶めくり」だ。
今回は、僧侶めくりの面白さについて、確率や平均値を使って考えてみよう。
◇ 僧侶の札が出たら持ち札すべてを没収される
ただし、ルールといっても、何か確立された全国共通のものがあるわけではない。最初に伏せた100枚の山札をどう置くか、という点一つとっても、(1)100枚すべてを1つに積む、(2)参加者に裏向きに順に配って参加者ごとに専用の山札を作る、(3)100枚を2つまたは3つほどの山札にしておいてどの山から札をめくるかは参加者が選ぶことができるようにする、などさまざまなやり方がある。
参加者が順番にめくっていく札については、僧侶の札が出たら持ち札すべてが没収となり捨て札として出さなくてはならず、女性の札が出たら捨て札をすべて持ち札に取ることができ、それ以外の札は単に持ち札に追加する、というのが基本的な取り扱いとなる。最終的に100枚すべてがめくられた段階で、持ち札が多い人が勝ちということになる。
ただ、武官(弓矢を持っていたり耳隠しを付けていたりする)の札が出たら、左隣の人の持ち札を全部もらえるとするルールや、女性の札が出たらもう1枚めくることができる、といったさまざまな応用ルールもあるようだ。これらのうち、どれかのルールが正統というようなことはない。家ごとに、いろいろな僧侶めくりの楽しみ方があることになる。
◇ 女性の札は21枚、僧侶の札は13枚
女性の札は21枚ある。つまり、百人一首の男女比は、79:21ということになる。この男女比を、ジェンダーの観点からどう見るべきかについてはなんともいえないが、僧侶めくりのゲームとしては、女性の札がそこそこ出るということで、バランスのいい札数といえるだろう。
そして肝心な僧侶の札だが、実は、その枚数については諸説がある。
喜撰法師、僧正遍昭、素性法師、恵慶法師、前大僧正行尊、能因法師、良暹法師、道因法師、俊恵法師、西行法師、寂蓮法師、前大僧正慈円の12人の法師や僧正は、当然、僧侶の札となる。問題は、法性寺入道前関白太政大臣、入道前太政大臣の2人の入道を僧侶に含めるかどうかという点だ。この2人は貴族として過ごした時間が長かったようで、通常、絵は法師の姿では描かれていない。そこで、本稿では僧侶には含めないことにする。
そして、もう1人悩ましいのが蝉丸大夫だ。蝉丸大夫は謎が多い人物だったようで、歌人だった、僧侶だった、など諸説がある。百人一首の絵としては、頭巾姿で描かれていることもある。そのためか、僧侶めくりでは「蝉丸ルール」が置かれている場合もあり、この札が出たら、(1)めくった人は1回休み、(2)全員の持ち札が没収される、(3)めくった人が最下位確定、などユニークな取扱いがなされることもあるようだ。
単に、蝉丸大夫を僧侶の札とみなすこともよく行われる。本稿では、僧侶の札は、蝉丸大夫の札を含めて全部で13枚ということにしよう。
◇ 最初の僧侶の札は平均的に7枚目に出る
それでは、僧侶めくりを始めてから、最初の僧侶の札は何枚目に出るだろうか。話の前提として、各札はよくきられていて、どの札もランダムに出現するものとしよう。
まず、まじめに確率を使ってその平均値を求めることを考える。最初の僧侶の札がk枚目(kは1~88の整数(89枚目以降に最初の僧侶の札が出ることはありえない))に出るとする。その確率p(k)は、
p(1) = 13/100
p(2) = 87/100 × 13/99
p(3) = 87/100 × 86/99 × 13/98
p(4) = 87/100 × 86/99 × 85/98 × 13/97
p(k) = 87/100 × 86/99 × 85/98 × … × (89-k)/(102-k) × 13/(101-k) (kが5以上の場合)
このp(k)を使って、∑k×p(k) (∑の足し算は、k = 1~88 について行う)を計算すればよいわけだが、実際にやろうとすると、kの13次の項とかが出てきて、計算はなかなか大変なものとなる。
そこで、確率を使わずに、もっと簡単に平均を求めることを考える。
ランダムに並べられた100枚の札を、“87枚の僧侶以外の札が、13枚の僧侶の札によって、14個の部分に分けられたもの”とみなすのだ。札はランダムに並べられているので、僧侶以外のそれぞれの札が14個のどこの部分に入るかは同じ確率とみることができる。このようにみなすと、平均的には14個の部分に同数、つまり、87 ÷ 14 ≒ 6.2枚ずつ入っていることになる。そうすると、最初の僧侶の札はこれに1を足して、平均して7枚目に出るということになる。
この考え方によれば、その後も2枚目、3枚目…の僧侶の札は、平均的に7.2枚ごとに出ると予想できる。
これは、僧侶めくりのゲームとしての絶妙さを表すものと言える。5、6人の参加者が順番に札をめくっていくとしよう。すると、1~2周に1回程度、僧侶の札が出ることになり、引いた人の持ち札すべての没収という“波乱”が生じることになる。
◇ 最後の数枚に大逆転のドラマが待っているかも
そして、僧侶の札が出た後の女性の札はどうか。21枚の女性の札についても、僧侶の札と同じように計算してみると、最初の女性の札は平均的に4、5枚目に出る(79 ÷ 22 + 1 ≒ 4.6枚目)。最後の女性の札は後ろから数えて平均的に4、5枚目、つまり最初から数えると96、97枚目あたりに出ることになる。
最終盤で、運の悪いプレーヤーが僧侶の札をめくり、それまでにためた持ち札がすべて没収される。捨て札には、大量の札がある。そんななかで、強運のプレーヤーが女性の札をめくって、捨て札を総取りにし、鮮やかに勝利をつかむ ― そんな大逆転のドラマが待っているかもしれない。
もちろん、以上で述べた内容はあくまで「平均的」な話であり、いつも必ず逆転劇が起こるというわけではない。だが、最後の最後までどうなるかわからないというハラハラ、ドキドキ感、つまりスリルが、僧侶めくりの醍醐味であることは間違いないだろう。
「光陰矢の如し」と感じられる日々を過ごして、脳の老化が少し気になってきた中高齢者は、正月に子どもたちと一緒に僧侶めくりで大いにスリルを味わって、脳を活性化してみるのもよいように思われるが、いかがだろうか。
(本稿執筆にあたり参考にした情報)
「〈ジャネーの法則〉大人になると、どうして早く時間が過ぎたように感じるの?」深見れいこ(tenki.jpホームページ 季節・暮らしの話題 トピックス, 2018年11月10日)
「百人一首」(Wikipedia)
「確率パズルの迷宮」(岩沢宏和, 日本評論社, 2014年)
(2024年12月17日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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