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気候変動:死亡率シナリオの作成-気候変動の経路に応じて日本全体の将来死亡率を予測してみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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これまでに、気象データをもとに、日本全国の気候指数を作成した。また、回帰分析を通じて、気候指数と人の死亡率の関係を定式化した。そして、得られた関係式をもとに、対象地域とデータ取得に用いる気候モデルを限定した上で、将来死亡率を試算した。試算は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次評価報告書で示している共通社会経済経路(SSP)をもとに行った。これにより、「気候変動が激しくなると死亡数に一定の影響を及ぼしうる」との結果を得ることができた。
今回、予測の対象地域を日本全国に拡大した。併せて、データ取得に用いるモデルを、5つの気候モデルに拡張した。その上で、SSPをもとに、日本全体の将来死亡率を予測計算した。
その結果、“気候政策を導入しないSSP5-8.5の経路では、気候政策により今世紀末までの昇温を2℃未満に抑えるSSP1-2.6の経路に比べて、2081-2100年の死亡数が +2.0%増加し、気候モデル間の差異が拡大する”との帰結に至った。このことから、「気候変動が激しくなると、死亡数の増加が膨らみ、予測の不確実性が高まる可能性がある」との推論を得ることができた。
ただし、この推論は、気候変動と死亡率の相関関係をもとに導出したもので、メカニズムを明らかにしたものとは言えない。今後、因果関係の検証など、推論の精度向上に努めることとしたい。
■目次
はじめに
1――気候指数の作成
1|気候指数には慢性リスク要因の影響の定量化が求められる
2|地域区分ごとに複数の観測地点を設定
3|気象データの観測地点は気象台等とする
4|観測地点は、全部で175地点 (気象データ154地点、潮位データ57地点)
5|気候指数は地域区分ごとに作成し、その平均から日本全体の指数を作る
6|月ごとと季節ごとの指数を作成する
7|指数は参照期間の平均と標準偏差をもとに乖離度の大きさとして表される
8|各項目について、閾値等を用いて指数を作成する
9|合成指数は、高温、降水、湿度、海面水位の4つの指数の平均とする
10|日本全体では合成指数が1971年以降の最高水準で推移している
2――気候指数と死亡率の関係の定式化
1|気候指数の活用-気候変動が人の生命や健康に与える影響を定量的に把握
2|7つの気候指数すべてを回帰計算に使用
3|大震災やコロナ禍の年のデータは回帰計算に使用しない
4|直近10年分のデータを学習データとして、回帰式を作成
5|回帰式は、性別、年齢群団、死因、暑熱期とそれ以外の時期別に504本作成
6|回帰式にはロジット変換や対数変換を組み入れる
7|ダミー変数は、地域区分と月について組み込む
8|高温と低温の指数については、2乗の項も用いる
9|死亡率の改善トレンドを、時間項として織り込む
3――将来の気候変動の指数化
1|IPCCが設定しているSSPをもとに気候シナリオが作られている
2|さまざまな全球気候モデル(GCM)により、SSPに応じた気候シナリオが作成されている
3|回帰式の再計算にあたり、データのない父島と南鳥島と、海面水位の指数は除く
4|モデルのデータの利用に関して、技術的な調整を3つ行う
4――死亡率シナリオの作成と将来の死亡数の予測
1|回帰式の海面水位の項は除去する
2|将来の人口の推移には「日本の将来人口推計」を用いる
3|死亡率に人口を掛け算したものを月単位の死亡数に調整する
4|死亡率の改善トレンドの織り込みは、当初10年間に限定する
5|死亡数計算結果の人口への反映は行わない
5――気候指数の予測結果
1|気候モデルは、過去の観測実績を概ね再現している
2|高温指数では、SSP5-8.5は他の経路に比べて大きく上昇している
6――死亡率の予測結果
1|気候指数が死亡率に与える影響割合は2%弱
2|2060年代以降、SSP5-8.5はSSP1-2.6を上回り、徐々にその差が拡大
3|死亡率は、2060年代以降、SSP5-8.5の経路がSSP1-1.9の経路を上回ることが多くなる
4|死因別 : 異常無(老衰等)の影響が大きい
5|年齢群団別 : 高齢層は温暖化の影響を受けやすい
6|季節別
: 温暖化は男性には夏季の死亡率上昇、女性には夏季以外の死亡率上昇をもたらす
7|地域区分別 : 温暖化が死亡率に与える影響の出現時期は、地域によって異なる
7――死亡数の予測結果
1|気候変動問題が死亡数に影響を及ぼすのは、2060年代以降
2|気候変動が激しくなると、死亡数の増加が膨らむ可能性がある
3|気候変動が激しくなると、死亡数増加の不確実性が高まる可能性がある
4|死因別
: 異常無(老衰等)の増加が大きく、これが全死因での死亡数増加につながっている
5|年齢群団別
: SSP1-2.6からSSP5-8.5への増減では、85歳以上のどの年齢群団も死亡数が増加
6|月別 : 春先や秋から冬にかけて、死亡数が大きく増加する
7|地域区分別 : 関東甲信は、気候変動の影響が他の地域に比べて小さい
8――考察
1|本稿のポイントは?
―「気候変動が激しくなると、死亡数の予測の不確実性が高まる」こともポイント
2|膨大な量のデータや算式による計算を行った意義は?
―異常値の影響を緩和した効果
3|得られた結果をどのように解すべきか?
―因果関係の検証を行うべきだが容易ではない
4|気候変動に対する適応はどう反映すべきか?
―諸研究の成果を踏まえて計算に取り入れていく
9――おわりに
参考文献・資料
※ 本文 ダウンロード(PDF)
※ (別紙)図表 ダウンロード(PDF)
(2024年12月24日「基礎研レポート」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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