2024年09月19日

家計消費の動向(~2024年7月)-物価高で食料や日用品を抑え、娯楽をやや優先だが温度差も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3――コロナ禍の影響を受けた主な費目のその後~物価高や行動変容で改善傾向に温度差

1|コロナ禍で減少していた費目
(1) 旅行・レジャー~国内旅行や遊園地は堅調の一方、円安で海外旅行は抑制傾向など娯楽の中でも温度差
まず、コロナ禍の影響で支出額が減っていた費目について捉える。「宿泊料」や「パック旅行費」は、コロナ禍でも政府による需要喚起策2の効果が後押しすることで、2023年前半頃までは増加傾向を示し、特に「宿泊料」はコロナ禍前の水準を上回る月が目立っていた(図表4(a))。一方、コロナ禍が明けた2023年後半以降は、両者ともおおむね横ばいで推移するようになり、2024年に入ると、「パック旅行費」は減少傾向を示すようになっている。「パック旅行費」は、交通費を含み海外旅行の影響が大きいために、2023年夏頃から歴史的な円安が進行3したことで、強い需要があっても割高感の強さから抑制されている可能性がある。

レジャーについても旅行と似た傾向が見られ、2023年までは増加傾向が強まっていたが、2024年に入って「遊園地入場・乗物代」と「文化施設入場料」は横ばい、「映画・演劇等入場料」は減少傾向が見られる(図表4(b))。

以上の旅行やレジャーの状況から、物価高で可処分所得に限りがある中では、娯楽費の中でも優先度や割高感の違いなどから温度差が生じている可能性がある(国内旅行や遊園地は優先される一方、海外旅行は控えられるなど)。
図表4 二人以上世帯のコロナ禍で影響を受けた主な品目(小分類)の推移(対2019年同月実質増減率)
図表4(続き) 二人以上世帯の消費支出および内訳の主な品目(大品目)の推移(対2019年同月、実質増減率)
 
2 2020年7月下旬に「GoToトラベル」が開始され、感染拡大によって12月下旬に一旦停止。2021年4月から自県民の県内旅行を推進する「県民割」が、その後、対象を地域ブロックに広げた「ブロック割」を2022年10月上旬まで実施。その後は対象を全国に広げた「全国旅行支援」が実施されている。2023年4月以降の「全国旅行支援」は各都道府県の予算がなくなり次第、順次終了。
3 日本銀行「外国為替市況」によると、2023年5月末は1米ドル139.75円だったが、その後、一層円安が進み、2024年4月末は1米ドル160.93円へと上った。7月以降は円高方向で8月末は1米ドル144.94円。
(2) 交通~バス・タクシーは供給不足などを背景にコロナ禍前より低水準、レンタカー・カーシェアは増加
交通費についても、2023年までは増加傾向を示し、2024年に入って横ばい、あるいはやや減少傾向を示している(図表4(c)・(d))。なお、「鉄道運賃」と「航空運賃」は「宿泊料」とおおむね同様に推移している。また、「バス代」と「タクシー代」はコロナ禍前の水準を下回り続けているが、これは需要というよりも供給に課題がありそうだ。以前から高齢化による運転手不足は課題であったが、コロナ禍で廃業が相次いだ後、回復しないままにインバウンドが本格的に再開しているため、供給不足から日本人の需要に十分に対応できていない可能性がある。とすれば、「鉄道運賃」にはバスやタクシーでの移動需要の一部が移行しているとも見られる。
図表5 シェアリングエコノミーの市場規模(ベースシナリオ) ところで、「レンタカー・カーシェアリング料金」はコロナ禍で需要増(非接触志向の高まりによる公共交通機関の代替手段など)と需要減(外出控えによる観光地での利用減少など)の両面の影響があった費目である。当初は両者を差し引くとコロナ禍前を下回る月もあったが、2022年頃からコロナ禍前を上回って推移している。この要因には、シェアリングエコノミーの進展や物価高による節約志向の高まりなどがあげられる。なお、一般社団法人シェアリングエコノミー協会の推計によると、シェアリングエコノミーの市場規模は2022年度に2兆6,158億円であり、そのうちカーシェアやシェアサイクルなどの移動のシェアは2,630億円(市場の10.1%、なお市場の約半分はフリマアプリなどのモノのシェア)で、今後も拡大する見通しである。
(3) アパレル・メイクアップ用品~アパレルは中長期的に低迷懸念、メイクアップ用品は2024年も改善傾向継続
「背広服」や「婦人用洋服」は、月による増減が大きいが、外出行動に関連が深いこともあり、コロナ禍前を大幅に下回る月が目立つ(ただし、脚注1の消費増税による反動減との対比で特に10月に伸びやすい費目)(図表4(e))。一方で、2024年4月に「背広服」は大幅に伸びているが、これは、5類引き下げ後に初めての新年度を迎えたことで、スーツの買い替えや入社式などの行事需要などが後押しした影響が考えられる。ただし、アパレル用品については、中長期的にオフィス着のカジュアル化やテレワークの普及による出社機会の減少に伴う需要低下や、ファストファッションやフリマアプリなどの二次流通の普及による支出額の減少が懸念されていくものと見られる。

「ファンデーション」や「口紅」についてはコロナ禍前を下回る月が多いものの、2023年以降、改善傾向が強まっている(図表4(f))。両者とも他の費目とは異なり、2023年と比べて2024年は改善傾向が強まっている。メイクアップ用品については、5類引き下げで消費行動が平常化される中で、特にマスク着用の機会が減った影響が大きいのだろう。
(4) 対面サービス~インフルエンザなどが季節を問わず流行で診療代は2023年以降も高水準
「医科診療代」や「マッサージ料金等(診療外)」、「理美容サービス」は、いずれも必需性が高いため、外出行動に関わる費目の中でコロナ禍でも比較的早期に改善傾向を示してきた(図表4(g))。2023年以降の「医科診療代」の増加については、外出行動の平常化によってインフルエンザなどの他の感染症も季節を問わずに流行し始めたことで、医療機関の受診が増えた可能性があげられる。
(5) 外食~「食事代」も「飲酒代」もコロナ禍前より低水準が継続、行動変容と物価高で消費抑制対象の可能性も
外食の「食事代」と「飲酒代」は改善傾向が続いているが、2024年に入って鈍化している(図表4(h))。また、両者とも未だコロナ禍前の水準を下回っており、特に「飲酒代」が低迷している。国内旅行や遊園地などと比べて、外食の改善傾向が鈍い要因には、テレワークの普及で就労者の外食機会(昼食や職場の飲み会)が減少したことに加えて、物価高が続く中では消費抑制対象となっている可能性があげられる。
2|コロナ禍で増加していた費目
(1) 内食・中食~出前は大幅伸長が継続、物価高で外食控えによる手軽な中食需要や安価な食材選択も
ここからは、コロナ禍の影響で支出額が増えていた費目について捉える。内食(自炊)や中食(冷凍食品や総菜、出前)に関連する費目は、コロナ禍当初は「巣ごもり需要」によって増えていたが、2021年以降は外食の再開傾向が強まる中で、コロナ禍をきっかけに供給量の増えた「出前」(名目値であることに注意)と家飲み需要と見られる「チューハイ」を除くと、減少傾向を示すようになっている(図表4(i))。一方で、足元では費目によって傾向が異なっており、「パスタ」は2023年半ば、「冷凍調理食品」は2024年頃から再び増加に転じる一方、「生鮮肉」は減少傾向が続いている。物価高が継続する中で、外食控えによる代替手段(手軽な食事)として需要が増している費目がある一方、消費者が安価な食材を求める中で需要が弱まっている費目がある様子がうかがえる。
(2) デジタル娯楽~デジタル化の進展で外出行動再開でも電子書籍やアプリ類は堅調
巣ごもり生活で需要の増した「電子書籍」やソフト・アプリ類は、外出行動は再開されて以降も、デジタル化の進展という土台があるために、コロナ禍前の水準を上回って堅調に推移している(図表4(j))。

(2024年09月19日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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