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- ECB政策理事会-今回は据え置き、次回は文字通りデータ次第か
2024年07月19日
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1.結果の概要:政策金利は据え置き
7月18日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利の据え置きを決定
【記者会見での発言(趣旨)】
・最新の情報は総じて、前回の中期的なインフレ見通しへの評価を支持するものだった
・短期的には人件費は高止まりすると見られる
・成長率に対するリスクは下方に傾いている
・今回の会合では、金融政策が、データ依存で、会合毎に、事前の金利経路の確約なく行われるという事項が全会一致で決定した
・データ依存だが、それは特定データ(data point)に依存することを意味しない
2.金融政策の評価:次回の政策決定は、文字通りデータ次第に
ECBは今回の会合で、市場予想通りとなる政策金利の据え置きを決定した。ECBは前回6月に政策金利の引き下げを決定したが、連続利下げは見送った。
声明文や冒頭説明での景気評価では、域内インフレ圧力の強さやサービスインフレの高さが続く一方で、利益の縮小がインフレ圧力の緩和に寄与していると評価しつつ、概ね前回6月のインフレ見通しを補強する内容だったとした。なお、成長に関するリスクバランス評価は「下方に傾いている」として「短期的には均衡、長期的には下方に傾いている」との前回評価からやや下方修正された。
前回6月の利下げ時にはその前の4月の会合で利下げを示唆する声明(「インフレ率が目標に収束するという自信を強めることができれば利下げが適当」との記載)や理事会メンバーによる利下げ示唆の発言が数多くあり、積極的に利下げを織り込ませるコミュニケーションがなされた。次回9月の利下げを予測する向きもあるが、今回の会合では次回9月の利下げに対する示唆がほとんどなかったため、質疑応答で今後の利下げに関する質問もいくつか見られた。ラガルド総裁は、これまでと同様、データ依存で会合毎に判断を行い、金利経路を事前に確約しない点を強調しており、次回9月の政策判断は、(今後、理事会メンバーから示唆が増える可能性はあるももの)文字通りデータ依存の色彩が強くなるだろう。それだけに、今後発表されるインフレ率やラガルド総裁が言及する賃金、利益、生産性データ、理事会メンバーの発言への注目度は高いと言える。
声明文や冒頭説明での景気評価では、域内インフレ圧力の強さやサービスインフレの高さが続く一方で、利益の縮小がインフレ圧力の緩和に寄与していると評価しつつ、概ね前回6月のインフレ見通しを補強する内容だったとした。なお、成長に関するリスクバランス評価は「下方に傾いている」として「短期的には均衡、長期的には下方に傾いている」との前回評価からやや下方修正された。
前回6月の利下げ時にはその前の4月の会合で利下げを示唆する声明(「インフレ率が目標に収束するという自信を強めることができれば利下げが適当」との記載)や理事会メンバーによる利下げ示唆の発言が数多くあり、積極的に利下げを織り込ませるコミュニケーションがなされた。次回9月の利下げを予測する向きもあるが、今回の会合では次回9月の利下げに対する示唆がほとんどなかったため、質疑応答で今後の利下げに関する質問もいくつか見られた。ラガルド総裁は、これまでと同様、データ依存で会合毎に判断を行い、金利経路を事前に確約しない点を強調しており、次回9月の政策判断は、(今後、理事会メンバーから示唆が増える可能性はあるももの)文字通りデータ依存の色彩が強くなるだろう。それだけに、今後発表されるインフレ率やラガルド総裁が言及する賃金、利益、生産性データ、理事会メンバーの発言への注目度は高いと言える。
3.声明の概要(金融政策の方針)
今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利、フォワードガイダンス)
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(資金供給オペ)
(その他)
- 理事会は、本日、3つの主要な政策金利を据え置くことを決定した
- 最新の情報は総じて、理事会の前回の中期的なインフレ見通しへの評価を支持するものだった
- 5月には一時的な要因によりいくつかの基調的なインフレ指標が上昇したが、6月はほとんどの指標が横ばい、もしくは低下した
- 予想通り、賃金上昇率の高さによるインフレ圧力は利益で緩和されている
- 金融政策は資金調達環境を制限的に保っている
- 同時に域内インフレ圧力は依然として強く、サービスインフレは高く、ヘッドラインインフレ率は来年にかけて目標を上回る状況が続くと見られる
- 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
- この目的のために、政策金利を必要とされる期間にわたり十分に制限的に維持する
- 理事会は適切な制限水準と期間を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う
- 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
- (パンデミック緊急資産購入プログラム(PEPP)の保有削減の記載は削除)
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.25%
- 限界貸出ファシリティ金利:4.50%
- 預金ファシリティ金利:3.75%
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- PEPP元本償還分の再投資実施(内容に変更なし)
- ユーロシステムはもはやPEPPの元本償還の全額を再投資せず、月額平均75億ユーロ削減する
- 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する予定である
- PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
- 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(リスク評価)
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策金利と政策姿勢への言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 最新情報では、ユーロ圏経済は4-6月期に成長すると見られるものの、1-3月期よりも鈍化すると思われる
- サービス業が引き続き回復を主導する一方、工業生産と財貿易は弱さが続いている
- 投資指標は不確実性が高まる中、24年の成長鈍化が示唆されている
- 将来については、低インフレと高い名目賃金による実質所得の改善を主因に、消費が回復を支えることが期待される
- 加えて、世界的な需要の高まりに伴って輸出も伸びるだろう
- さらに、金融政策による需要鈍化も、時間の経過にともない影響が弱まるだろう
- 労働市場は引き続き強靭である
- 失業率は変わらず5月に6.4%とユーロ圏発足以来の最低水準を維持している
- 雇用者数は、労働力人口と同じペースでの増加に支えられ1-3月期に0.3%成長した
- 主にサービス部門を中心に、さらに多くの職が4-6月期には生み出されると見られる
- 企業は高水準からではあるものの、段階的に求人を削減している
- 国家の財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的にし、競争力を向上させるために実施されるべきであり、これは中期的な潜在成長力の向上とインフレ圧力の削減に寄与するだろう
- 効率的、迅速かつ完全な次世代EUプログラムの実行、資本市場同盟と銀行同盟完成に向けた進捗、単一市場(Single Market)の強化はイノベーションの促進とグリーンやデジタル移行への投資を増加させる助けになる鍵となる要素だろう
- 我々はEU加盟国に対して財政の持続可能性強化を求める欧州委員会のガイダンス、およびユーログループの25年に向けた財政スタンスへの声明を歓迎する
- EUの修正された経済統治枠組み(economic governance framework)が遅延なく完全に実行されることは、政府の財政赤字と債務比率を持続的な基準に引き下げる助けになるだろう
- (「政府は、ディスインフレ過程が持続的に進むよう、引き続きディスインフレの過程が持続的に進むよう、エネルギー関連支援策を終了させるべきである」との記載は削除)
(インフレ)
- インフレ率は5月の2.6%から6月には2.5%に低下した
- 食料インフレは6月に2.4%となり5月から0.2%ポイント上昇する一方、エネルギー価格は引き続きおおむね横ばいだった
- 6月の財インフレとサービスインフレは変わらず、それぞれ0.7%と4.1%だった
- いくつかの基調的なインフレ指標は5月に一時的な要因で上昇したが、6月はほとんどの指標が横ばい、もしくは低下した
- 域内インフレは引き続き高い
- 賃金も過去の高インフレを埋め合わせるため、依然として高止まりしている
- 1-3月期には減速したものの、高い名目賃金と生産性の弱さが単位労働コストの押し上げに寄与している
- 賃金調整のずれの特性と一過性の支払の寄与が大きく、短期的には人件費は高止まりすると見られる
- 同時に、1人あたり雇用者報酬の最近のデータは、来年にかけて賃金上昇率が緩和するという最新の調査が示す期待に沿った動きとなっている
- 加えて、1-3月期には利益が縮小し、高い単位労働コストのインフレへの影響を相殺しており、調査では利益は短期的に引き続き弱いことが示唆されている
- インフレ率は、一部はエネルギー価格に関連したベース効果によって、今後数か月は現在の水準前後で変動すると見られる
- その後来年後半にかけて、労働コストの低下と制限的な金融政策効果、過去のインフレ高騰の影響が解消されることで、目標に向けて低下すると見られる
- 長期のインフレ率は総じて安定しており、ほとんどが2%近くになっている
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは下方に傾いている(「短期的には均衡、長期的には下方に傾いている」から修正)
- 世界経済の軟化、主要経済圏による貿易摩擦の激化がユーロ圏の成長の重しになるだろう
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争や中東での悲劇的な紛争は地政学的リスクの主要要因である
- これは企業や家計の将来への景況感を低下させ、また世界的な貿易を混乱させるかもしれない
- 金融政策の効果が予想以上に強く生じれば成長率が低下する可能性がある
- インフレ率の低下が予想よりも迅速に進み、景況感の改善と実質所得の上昇が予想以上に支出を増加させること、世界経済が予想以上に強く成長することが成長率を押し上げる可能性がある
- インフレ率は賃金や利益が予想以上に上昇すれば、上振れする可能性がある
- インフレ率の上方リスクはまた、特に中東における地政学的緊張の高まりがエネルギー価格や運送費用を短期的に上昇させ、世界貿易を混乱させることが含まれる
- 加えて、異常気象や気候変動危機の展開が、食料品価格を上昇させる可能性もある
- 対照的に、インフレ率は金融政策が予想以上に需要を低下させること、もしくは、予想外に世界経済が悪化することで低下する可能性がある
(2024年07月19日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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