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- 中国不動産不況と不良債権問題-日本の経験から言えること
2024年07月08日
1――中国は日本病にかかったのか?
中国の経済の状況は、90年代の日本を想起させる。中国では、成長率が顕著に低下する「成長屈折」が始まり、住宅や土地などストック価格の低下と、消費者物価などフローの低下が、同時進行している。若者の失業率も高く、債務問題も深刻化するなど、中国は日本病にかかったようだという声も聞かれるようになっている。
ただ、中国が風邪を引けば、日本も影響を受けざるを得ない。日本にとって中国は、最大の貿易相手国であり、重要な市場となっている。足元では、原発処理水の問題もあって、インバウンドなどに影響が及ぶことが懸念されるが、中国経済の低迷は、日本の生産や輸出にも大きな影響がある。
当研究所では、中国経済の実質成長率を2023年は前年比+5.0%、2024年は同+4.5%と見込んでいるが、不動産バブルの破裂といったショックがあれば、大きく下振れする可能性がある。
ただ、中国が風邪を引けば、日本も影響を受けざるを得ない。日本にとって中国は、最大の貿易相手国であり、重要な市場となっている。足元では、原発処理水の問題もあって、インバウンドなどに影響が及ぶことが懸念されるが、中国経済の低迷は、日本の生産や輸出にも大きな影響がある。
当研究所では、中国経済の実質成長率を2023年は前年比+5.0%、2024年は同+4.5%と見込んでいるが、不動産バブルの破裂といったショックがあれば、大きく下振れする可能性がある。
2――不良債権処理に陥った際の頭の整理
中国で不動産バブル崩壊となれば、何らかのバランスシート調整が起きて、日本が90年代後半から長期間経験した不良債権処理のプロセスに入ると思われる。
日本の不良債権処理は、とにかく時間が掛かった。日本の不良債権処理は、まさに“too little, too late”であり、不良債権処理について「もっと不良債権はあるはずだ、こんなものではない」といった声が多く聞かれた。実際に事態が鎮静化したのは、日本の独特な金融制度への理解が深まり、信頼性の高いデータが出るようになって、事態のコンセンサスが形成され、政治的に困難であった大規模な公的資金導入が、数度行われた後である[図表2]。
そう考えると中国の現状は、まさに不良債権が急増する前の状況ではないかと感じてしまう。ただ、日本の90年代と比べると、現在の中国との相違点も見えてくる。
例えば、中国は共産党の一党独裁体制であるため、民主的なプロセスを得ないで政策を実行することができる。これは、バランスシート調整において、公的資金投入が迅速に行えるなどの点ではプラスである。強権を以って事態に対処できるため、最終的には中央政府が強く関与することで、急激な経済・金融危機は回避できる可能性はある。
一方で、為替に対する対応は、大きく異なると考えられる。日本では輸出のブレーキとなる、円高が大きな問題となったが、中国では資本流出を伴う、元安が大きな問題となる可能性が高い。株価や消費の下支えには、金融政策を緩和し、金利を下げることが効果的である。ただ、それは元安誘導する政策にもなり、資本流出を招く危険がある。中国経済の低迷を受けて、海外勢が直接投資を引き上げることに加えて、国内から資金逃避の動きも起こる。この怖さは日本の90年代より、はるかに大きなリスクとして予見される。すでに地政学的な分断などもあって、中国では直接投資が急減している[図表3]。為替も元安基調を強めており、リスクが前倒しで顕在化しているようにも見える。
そう考えると中国の現状は、まさに不良債権が急増する前の状況ではないかと感じてしまう。ただ、日本の90年代と比べると、現在の中国との相違点も見えてくる。
例えば、中国は共産党の一党独裁体制であるため、民主的なプロセスを得ないで政策を実行することができる。これは、バランスシート調整において、公的資金投入が迅速に行えるなどの点ではプラスである。強権を以って事態に対処できるため、最終的には中央政府が強く関与することで、急激な経済・金融危機は回避できる可能性はある。
一方で、為替に対する対応は、大きく異なると考えられる。日本では輸出のブレーキとなる、円高が大きな問題となったが、中国では資本流出を伴う、元安が大きな問題となる可能性が高い。株価や消費の下支えには、金融政策を緩和し、金利を下げることが効果的である。ただ、それは元安誘導する政策にもなり、資本流出を招く危険がある。中国経済の低迷を受けて、海外勢が直接投資を引き上げることに加えて、国内から資金逃避の動きも起こる。この怖さは日本の90年代より、はるかに大きなリスクとして予見される。すでに地政学的な分断などもあって、中国では直接投資が急減している[図表3]。為替も元安基調を強めており、リスクが前倒しで顕在化しているようにも見える。
3――最大の問題は、「データ」の信頼性
現時点で、中国の不良債権問題が、どのように決着するかを正確に予想するのは不可能だ。ただし、金融市場や企業ビジネスは、事態が悪くても最悪期が見えれば投資を開始する。資金の流れが強まり、経済が上向くことで、それ自体が不良債権問題を緩和する役割を果たす。
日本の経験に照らし合わせれば、不良債権の問題で注目されるポイントは3つある。1つは、不良債権などバブル崩壊の全容把握ができる「信頼できる」データがあること。2つ目は、国内外で実態の「本当の悪さ」に対するコンセンサスが形成されること。3つ目は、公的資金導入などの大胆な政策が打たれること。この3つが、どのようなタイミングで出て来るかが、極めて重要である。これができないと、中国経済は長期低迷するというシナリオの蓋然性が高まることになる。
日本の経験に照らし合わせれば、不良債権の問題で注目されるポイントは3つある。1つは、不良債権などバブル崩壊の全容把握ができる「信頼できる」データがあること。2つ目は、国内外で実態の「本当の悪さ」に対するコンセンサスが形成されること。3つ目は、公的資金導入などの大胆な政策が打たれること。この3つが、どのようなタイミングで出て来るかが、極めて重要である。これができないと、中国経済は長期低迷するというシナリオの蓋然性が高まることになる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年07月08日「ニッセイ基礎研所報」)
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経歴
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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